2羽は5月末に新居を完成し、その日のうちに目出度くドッキングにも漕ぎ付け、幸せな未来に向け一歩を踏み出したかに見えた。
3週間ぶりに行って見ると、何か様子が変。雄の尾羽があの時より短い。聞くと、尾羽の長い雄は、若い雄に妻を寝取られ、今は放浪の旅に出ている、と言う。新しい夫婦は代わる代わる抱卵に入っていた。
そんなことがあるのかと2、3日措いてもう一度行って見ると、元亭主が戻ってきていた。そろそろ我が子が生まれる頃合いと思ったのだろう。
両親が巣を離れた隙に巣を覗き込み
巣に入って
卵に話し掛けてみる。
卵を抱いて、わが子の動きを肌で感じることができただろうか。
異変に気付いて母親がすごい剣幕で帰って来て、元亭主を追い払う。男は、一度は体まで許した仲なのに冷たい女だ、と思ったかどうか。
(右下に雌親)
(左下に雌親)
あの日のドッキングに何か不手際でもあったのだろうか。今にして思えば、確かにあの時の女は妙に醒めていた。失意の元亭主は再び放浪の旅に出る決心がついたようだ。
いとどしく 過ぎゆく方の 恋しきに うらやましくも かへる浪かな(伊勢物語)
(やむごとない姫君との駆け落ちに失敗した主人公が、京に居られなくなり、後ろ髪を引かれる思いで旅に出る、その東下りの途上で詠んだもの)
撮影場所 東京都・八王子城跡(2020年6月) 撮影 S・植木