関西育ちだったので、お蕎麦は年に1度、大みそかに食べる程度だった。関東の方に出てきた時も、立ち食いそば等では、うどんを食べていた。

関西で蕎麦が名物と言われる兵庫の出石に行って、蕎麦をいただいたが「まあこんなもんか」と、それ以降も、うどんばかりだった。

岐阜の五箇山で、そば打ちをする機会があった。関東の方から、気合の入ったおじさんが来ていて、一緒に蕎麦をうっていた。言われたままにやっているだけなのだが、どうもそのおじさんは、私より、うまくうてていないようだった。最後にそばを切る段になって、ふだんあまり食べていなかったので、面の太さが「どんなんやったっけ」と思い、「まあ、うどんよりちょっと細く切ればいいだろう」と、適当に切った。するとそのおじさんが「最後に失敗したね」と話しかけてきた。そのおじさんからすると、蕎麦はもっと細く切るものらしかった。

そんな感じで、関東でもうどんを食べていたのだが、ある日、行きつけの立ち食いソバ屋が、冷やしうどんを出すときに、それに合わせて、うどんが全部細くなってしまった。「なんやこれは、冷や麦の太いやつやんけ」と閉口して、この際、こっちは蕎麦が主流なんやから、蕎麦を食べてみようと、食べ始めた。

すると、「こっちの出汁には蕎麦の方が合う」と気がついた。出石も、今から考えると、出汁が関西風で、蕎麦もあっさりとして蕎麦だった。香りの強い蕎麦には、味が濃く、かつおだしの聞いた関東の出汁が合う。

そもそも、時代劇で、江戸の蕎麦屋で、酒を飲みながら、蕎麦を食っているシーンがよくあるが、関西のうどん屋で、酒を飲むシーンは見たことがない。そもそも、うどん屋はシメだけだ。味の濃い蕎麦と出汁だから成り立つ話だ。

それ以来、関東では蕎麦、特に、関西ではお目にかかったことない、春菊天とのセットが定番となった。