・交響曲第6番イ短調
リッカルド・シャイー指揮
ロイヤルコンセルトへボウ管弦楽団
(1989年10月、アムステルダム・コンセルトへボウでのセッション・デジタル録音)
唐突ではありますが、
この盤、録音がすこぶるいいっ!
定位がしっかりしていて、音像が終始ブレません。
ダイナミクスレンジもたっぷり広く、
CDというフォーマットでこれだけ聴かせるのですから、
レコーディング・チームには脱帽です。
もし、最新のDSD録音によるSACDだったら、
ものすごいことになっていたかもしれませんが
ないものねだりは辞めておきましょう。
どうして最初に録音のお話をするか、というと
マーラーの6番は、多種多彩な打楽器、
例えば、カウベルやムチ、ハンマーまで登場します。
それらが、変テコな録音だと、明瞭に聴こえなかったりして、
果たしてどこまでの重きを置いてハンマーを振るったのか?
がわかりにくかったりするのです。
だから、この曲を聴くに当たっては、録音状態をかなり重要視しているのです。
でも、これはバッチリ。
所持しているのは輸入盤なのですが、
ライナーノーツに「B&W社のスピーカー」とクレジットされていますから
モニタースピーカーにはB&W社のものを使用してこだわりました、
ということなんでしょうね。
こだわっただけに、いい録音です。
さて、演奏について。。。
第一楽章→スケルツォ→アンダンテ→フィナーレと進行していきます。
どちらかというと、第2楽章にアンダンテのほうが好みなのですが、
その話は今日は割愛っ!
総じてゆっくりとしたテンポで
この指揮者もイタリア人らしく、
自慢のオケを駆使してたっぷり歌い
ここぞとばかりにガツンと解き放つワイドレンジな演奏です。
前述の優良録音と相俟って、フィナーレのハンマーの打撃の箇所などは
その音の厚みに鳥肌が立ちます。
また各楽器のクレッシェンドの扱いが非常にデリケートで
ゆったりとした旋律の歌わせ方とがブレンドされて
メリハリが効いて色彩豊か。
それについてくるオケもさすがは名門だけありますっ。
のめり込みすぎず、講釈がましくもない、聴き易いマーラーです。
しかし、この曲はもっとエグみがあってもいいのではないでしょうか?
世紀末と新世紀の狭間で活躍したマーラー、
また、ユダヤ人として生まれたものの、キリスト教に改宗し、
でも故郷のボヘミア人でもなく、仕事で活躍した独墺人でもない、
自分の居場所が最後まで持てなかった終生「異邦人」として、
「不安定で座り心地の悪さ」がもっと音になってもいいと思うのですが。
このオケの指揮者の系譜を考えてみると
マーラー自身も生前指揮台に立ち、その弟子メンゲルベルクが受け継いだこのオケ。
マーラー演奏に一家言をもっているはずです。
そしてココンチの近年の首席指揮者は
ハイティンク→シャイー→ヤンソンス。
この3人ともマーラーをよく取り上げ、ディスク化(ヤンソンス以外は全集化)もしています。
そんなオケ、当ブログでシャーの9番や、ヤンソンスのマラ5を取り上げましたが、
共通する演奏様式がなんとなく見え隠れすることに気付きました。
マーラーの譜面を借りた「オケ自慢」なんですよね、3人ともが。
ちょうど、イタリア人が振ろうと、日本人が振ろうと、
ニューイヤーコンサートにおける
ウィーン・フィルによるウィンナワルツは、ちゃんとウィーン・フィルの「音楽」なのと同じで。
こういうマーラー演奏が、RCOの「マーラー演奏の形」ではないか、と。
よく考えると、ウィーン・フィルはマーラーを常任にあったにも関わらず追い出した後ろめたさからか、
ワルター以降はバーンスタインがやるまではほとんど手付かずのレパートリーだったし、
ベルリン・フィルもバルビローニによる60年代の録音もありますが、
積極的に取り上げるのはアバド時代になってからのほんの20年間のこと。
しかしRCOは違います。約100年間、ずっと取り上げてきたわけですから、
ヨーロッパの名門オケの中では最もマーラー演奏の歴史があるオケといえるでしょう。
その間に作り上げてきた「このオケならではのマーラー」なのではないでしょうか。
えっ!?
バーンスタインの新盤はコンセルトへボウも絡んでるけど、
さっきの3人と全く違うぞ、
って突っ込みはご遠慮ください(爆)
今年のプレートルがかなりやりたい放題のワルツやって我々を驚かせてくれたのと同じということで。。。