言ってはならない言葉


 

息子の手術の後、集中治療室に呼ばれて行きました。

麻酔で眠ってる息子の顔を主治医は不思議そうに見ていました。

 

「先生、大丈夫です。この子赤ちゃんの時からこんな顔して寝るので…。

 姉もそうなんです。」

 

と言うと、主治医は笑いました。

息子は少し目を開けて眠ります。

日本人には4%くらいいるようです。

 

退院してしばらくして、

「不思議なんやけど…。」とその時の話を始めました。

 

前後のことは何も覚えていないのだけど、医師と私の談笑したこの会話だけ、

一語一句全て聴こえていたと言うのです。

 

麻酔から目覚める時だったのかとも思いましたが、主治医が笑った後、

私に話していた内容は全く覚えておらず、この部分だけまるで切り取ったように鮮明に覚えていると言うのです。

 

そして息子は続けました。

 

「ばあちゃん、あの時 絶対にあれ、聞こえてた。可哀想。」と。

 

息子が病気をする1年前に他界した義母(彼の祖母)のことです。

 

2012年に乳癌の手術を受けましたが、それ以外はずっと健康で、

血圧も血糖値も問題なく、

遠くのスーパーまでスタスタ歩いて買い物に行く人でした。

 

その義母が急に食べなくなったのです。

 

義妹から電話があり、ドラッグストアで甘酒を買って持って行きました。

 

夫には2人妹がおり、週末にいつも帰省していました。

彼女達は元気だった義母が急に具合が悪くなって戸惑っていました。

お手洗いに行く時も一緒に行って支えてあげなければいけないほどでした。

 

義母の介護は私にして欲しいと上の義妹が強い口調で言ってきました。

 

今までどんなことを義妹に頼まれても断ることはなかった私ですが、

この時の義母の介護は実母の介護をしながらできるレベルではないと判断しました。

 

「それは無理よ。」と私は答えました。

 

すると義妹は

 

「お母さんに振り回されて何もできない!!」

 

と大声で私を睨みながら激しく怒鳴ったのでした。

 

夫も息子もそばにいてそれを聞いていました。

そして義母はすぐ隣の部屋で寝ていたのです…。

 

伯父と伯母の最後をみてきた私は、

食べないからではなく、

お別れが近づくと食べられなくなることを知っていました。

 

胃ろうについては義母が元気な時に親子で話し合って、

しないことを決めていたようなので、

「その日」がやってくることは避けられない状況でした。

 

帰りの車の中で、

 

「ばあちゃんにあれ(義妹の怒鳴り声)聞こえたんじゃないの?」

 

と息子は訊いてきました。

 

「ばあちゃんは耳が遠いから大丈夫よ。」と私は答えましたが、

息子はずっとこのことを心配していたのです。

 

数日後に義母が他界してからも気になっていたようです。

 

麻酔で眠っていても医師と私の会話の一部を息子の脳が認識した理由はわかりません。

 

ただ、最後の時が近づいている人にはなぜか家族の会話が聞こえるのだと、

多くの患者の最後を知る医師がYoutube で発信しておられました。

 

「旅立とうとする人のベッドの近くで

 葬式のことや遺産のことなど絶対に話してはいけません。」

とその医師は訴えていました、

 

旅立ちの準備をしている方は、たとえ眠っているようでも全部聞いておられるのだとか。

 

家族が病室を出た後に医師と会話ができた患者たちはそのことを医師に告げたそうです。

 

その時、悲しみに満ちた最後ではなく、

満ち足りた最後を迎えさせてあげられたら…。

 

 

私たち皆にやがて訪れる旅立ちの時…

 

その時が来たなら 

 

どうかどうか

 

安らかに満ち足りた気持ちで

 

「ありがとう」と言って

 

旅立って行けますように…