一時間目は音楽です
自閉症児の多くは予定変更が苦手です
『光とともに』戸部けいこ 作
ヒロ君は月に一度、月曜日に発達医療センターに行きます。
平日しか行けないので登校すると1時間目は終わっています。
月曜日は1時間目に音楽、2時間目は算数でした。
算数が始まって間もなくお母さんに付き添われて登校してきたヒロ君。
教室の入り口で彼がわなわなと震えているのがわかりました。
「1時間目は音楽です!」 と大声で叫ぶヒロ君。
パニックになるなぁ...どうしようかと思った瞬間、
教室の一番前に座っていた男の子が、
「さんはい!」
と大声で言うと、クラスの子ども達が元気に歌い始めました。
毎日、朝の会で歌う歌が月替わりで決まっており、その月は
「世界に一つだけの花」でした。
歌詞付きの楽譜は皆の机の中にあります。
はなやのみせさーきにならーんだー
全員が歌い始めるとヒロ君は頬を紅潮させ、
急いでランドセルから教科書を出して机の中に仕舞い、
後ろの棚にランドセルを片付けると皆と一緒に歌い始めました。
大きな口を開けて元気いっぱい歌う子ども達。
嬉しそうに歌うヒロ君。
担任の先生もヒロ君のお母さんも嬉しそうでした。
私はハートをドキュンと射抜かれ、
感動で涙が出そうなのをこらえていました。
歌い終わると、最初に「さん、はい!」と言った男の子が、
「音楽が終わりました! 次は算数です!」と言うと、
「はいっ!」
とヒロ君。
そして算数の教科書をちゃんと出したのです。
なんて素敵な子ども達
私は五月からの勤務で小学校に来たので、そのクラスの完成度に驚きました。
小学校に入学した子ども達がたったの1ヶ月で
どんな指導をしたらこんなにまとまってヒロ君を受け入れる事ができるのか、
担任の先生に尋ねました。
彼女は微笑みながら、
「私は何も指導してません。
子ども達が自分達の意志でやっているのです。」
と答えてくれました。