『光とともに』は私の指南書だった
『光とともに…』という漫画は、2001年から9年間に渡って連載され、自閉症のある少年、東(あずま)光(ひかる)くんとその家族の歩みを描いたものです。
自閉症特有の症状と、それゆえに起こる日常生活上のトラブルや家族の葛藤、周囲の人たちの偏見と理解が綿密な取材によって描かれたことが反響を呼び、これまで累計260万部が発行されています。
以前、日本には発達障害に対する無理解がありました。
障害であることが認識されず、「わがままだ」「しつけがなっていない」などと周囲から誤解され、孤立して苦しむ事例が多くありました。
『光とともに』 戸部けいこ作
社会の理解が大きく広がったのは「発達障害者支援法」(2005年4月施行/16年5月改正)ができたことによります。
発達障害に初めて、国や自治体による支援の手が差し伸べられるようになりました。
自閉症は育て方が原因なのではありません
『光とともに』は、ちょうど私がヒロ君と向き合い始めた頃に書店で見つけ、
夢中になって読んだ漫画です。
自閉症と言っても、その症状はそれぞれ違い、『光とともに』の光くんのような症状がすべての自閉症児に現れるわけではありません。
例えば私の勤務していた小学校にはもう一人、六年生の自閉症の児童がいましたが、
彼は体に触れられることが嫌いで暴れることも多く、
身体の大きな男性教諭が担当していました。
逆にヒロ君は抱きしめてもらうことが大好きで、よく抱きついてきました。
丁寧な取材を元に描かれた『光とともに』は私の指南書になりました。
2004年には文化庁メディア芸術祭マンガ部門で優秀賞を受賞し、篠原涼子さん主演のテレビドラマにもなりました。
自閉症をはじめとする発達障害への関心の高まりと、自閉症と診断される子どもの数は年々増えている現状から新たな母親世代に対して、新装版が2017年に発売されました。
著者の戸部けいこさんは、本作連載中の2009年に中皮腫を発病し、連載を中断して闘病生活を送り、翌2010年に他界されました。
コミックス最終巻(第15巻)には、彼女が病床で描いた絶筆である「中学校編」第29話・30話の「ネーム」が、そのまま掲載されました。
そして、没後6年を経た2016年に、遺されたそのネームを、戸部さんと同期デビューした“盟友”である河崎芽衣さんがマンガ化し、別巻として発売されました。
また、この作品はこれまでに韓国・香港・台湾・米国・カナダでも翻訳刊行され、感動の輪を世界に広げています。
2009年には、自閉症の専門誌として最も歴史のある『Journal of Autism and Developmental Disorders』に、本作の英訳本を高く評価する書評が掲載されました。
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