サスペンス ~続編 ③~ | にゃんこと見る夢

サスペンス ~続編 ③~

もう家には戻れないだろう。

どうせあそこにはそんなに必要なものは置いちゃいないし。

まぁ別にいいわ。

貸金庫もしばらくは近寄らないでおこう。

当座はこれがあれば生活できるしな。


まず貴金属の買取やってる店に行き

プラチナの喜平ネックレスを1本売った。

最近は貴金属が高いから、全財産身に付けるのも簡単。

他にも役に立つから便利だ。

身分証明書なんていくつも持っている。

「瑤子」だって偽名だ。

アタシには何も本物なんてない。

あ、このプラチナは本物だけど。


とりあえず少しでも情報が欲しい。

少し買い物をして、それをコインロッカーにいれ

夕方を待ってあるバーに行った。


「すいません。まだ開店前・・・

なんだ瑤子か」

バーのマスターがグラスを磨きながら顔を上げた。


「オマエ鍵屋が行方不明らしいぞ。

・・・そのイメチェンぶりは何か関わったな?」


脱走した時のスタイルのままだったので

マスターにはお見通しだ。


「今回は俺には,、かばえねぇ。

今のところたいした情報もない。

唯一聞いているのは弥一には最近変わった様子はなかったが

洋はかなり羽振りがいいらしいってことだけだ。

ここはヤバい。逃げた方がいいぞ」


「ありがと。マスター。

でもねアタシの指紋はどこからも出ないからね」


軽く手を振ってそう言うと

マスターの顔は悲しそうにほほえんでいた。


マスター、アタシ売ろうとして葛藤してたでしょ。

バレてるって。

長い付き合いだもの。

逃がしても指紋くらいは売ろうとしたのね。残念。

今時はボンドとか使わなくてもいいものがあるのよ。

人工皮膚。

カツラとかに応用されたから皮膚になじむし

安くて便利なのよ。


アタシの言葉遣いはもう次のモードに向けて

チェンジしていた。



電車をあちこち乗り換えて

またコインロッカーに戻って

また電車乗り換えて

新しい服に着替えた。


今度はギャル系。

化粧は派手にまつげのエクステもして

赤に近いショートのヘア。

ジャラジャラジャンクアクセサリーをつけ

黒のセクシーな露出の多いミニドレスで

ラインストーンがたくさん付いたサンダルも黒。


今時はホント変装しやすい。

ヌーブラやら補正下着やらで体形も変えられる。

年もごまかして洋の行きつけのキャバクラに入り込んだ。


洋は一人で来ているらしい。

羽振りがいいのはテーブルの上のフルーツやら

ごっつい装飾のボトルやらですぐわかる。

2人女の子が付いているけど

左の子がお気に入りな様子。なるほどね。


「初めまして~晴代ですぅ~」

アタシは名刺を持って挨拶する。


洋は上機嫌で名刺を受け取りながら

「何?初めての子?

お祝いににボトル入れてあげるから

ここ座んなよ!」

ぽんぽんと自分の右側のソファーを叩きながら言う。


「ありがとうございまぁ~す」

白々しく演技しつつ隣へ。

洋はアタシの顔なんか見ちゃいない。

偽装した胸元に釘付けだ。

バカだなコイツ。


「お客様のお名刺かお名前いただけますぅ~?」

アタシが聞くと、洋は笑いながら

「オレは名刺持つような仕事なんかしちゃいねぇよ~。

名前は洋って呼んでくれよ」

アタシの左の腿に手を置いている。


「え~じゃぁどこかの御曹司~?

いや~んすごぉ~い!」


「まぁな。そんなもんだよ」

ますますテンション上がる洋に比べて

左の女の子がムッとしている。

いかんいかん。


「ご馳走様でした~。

またお席に呼んでくださいね!」

愛想よく去ろうとすると

「待てよ。これお小遣い。持ってきな」

手に数枚の一万円札と携帯番号が渡された。

「ありがとうございまぁす」

にっこり微笑んだら、去り際にケツ撫でられた。


アイツ本当にバカだな。

まるで見抜いてない。

もちろんそんなことは顔に出さない。


奥の控え室に戻るとさっきの左側の子

この店のNo.1のアスカが来て

「アタシの客を盗るつもり?」

と脅しをかけてきた。

アタシはそんなの怖くもなんともないんだけど

変に敵を作る気はさらさらない。


「いえ!あのお客様触ってくるし苦手なんです・・・。

さっき携帯番号いただいたんですけど

これお返しします・・・。

あとさっきいただいたチップも半分どうぞ」

差し出すとひったくるように奪い取って


「わかってればいいのよ。

アンタ別に悪い子じゃないみたいだけど

そんな風にしてたらこの世界やっていけないわよ?」

見下したように一瞥してアスカは出て行こうとした。


「待ってください。

実は黙ってようかと思ったんですが・・・

あの人殺人犯じゃないかって聞いてたんですけど

アスカさん大丈夫なんですか?」


「はぁ?何言ってんのよ!

弥一さん死んだけど、洋が犯人な訳ないじゃない!

ってゆーか何でアンタそんなこと知ってんの?

何者なのよ!?」


「アタシは・・・。

・・・弥一は・・・アタシの兄なんです・・・。

何で死んだのか、どうしても知りたくて・・・。」

アタシはアスカの顔をまっすぐ見つめハラハラと涙を流した。

ウソ泣きだけどね。


「私は今日初めて洋さんと会ったけど

兄から洋さんの話はよく聞いていました・・・。

洋さんのことは信じたいんです!

でもそんな噂があるから・・・。

アスカさん!何か知りませんか?

何でもいいんです・・・教えて・・・ください・・・」


「・・・アンタ弥一さんの・・・そう。気の毒にね。

でもアタシも知らないのよ。

洋がやってないとは思いたいんだけど

仲の良かった弥一さんが死んでも洋はあの通りなの。

何を考えているんだか・・・。

こんな派手に遊んでれば誰だって疑うわよね。

後で洋に話してみる。

アフター一緒にどう?」

アスカから敵意は消えている。


「ありがとうございます!ご一緒させてください!」


アスカはフロアに戻って行った。




店も深夜を前にして満席の大盛況。

アスカはあちこちからお呼びがかかり

何本ものボトルを入れてもらっている。

さっすがNo.1。

特に目立つ美人じゃないけど、

何といってもスタイルの良さはダントツだ。

女のアタシから見てもドキドキしてしまうほど。



「キャーッ!!」



フロアの端で悲鳴が聞こえる。

声の方向を見ると青いドレスの子が立ちすくみ

その横のソファにアスカ。

青い顔でぐったりしている。


「急性アルコール中毒だ!救急車を!」

マネージャーが黒服に指示を出した。

急性アル中?アスカはプロだよ?ありえないでしょ!


アスカごめん。

アプローチの仕方を間違えたよ。

アタシのせいでアスカも殺された。

あれはたぶん助からない。

でもおかげで少し敵が見えてきたよ。

敵は討つ・・・!


救急車到着の騒ぎの中、アタシはまたそっと店を去った。