あらすじ
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結婚して3年が経つ、テディベア作家の瑠璃子とIT会社勤務の聡。
傍から見ると幸せそうな2人だが、心はすれ違う日々だった。
「この家には恋が足りない」と孤独を感じていた瑠璃子はある日、テディベアの個展で自分のベアを欲しがる青年、春夫に出会い、お互いに惹かれ合っていく。
同じころ、夫の聡も大学時代のサークルのOB会で後輩のしほに再会し、次第に好意を抱き始める。心の距離が開いた夫婦2人、それぞれの秘密の恋。
2人一緒に過ごす日々の中で、小さな優しい嘘が積み重ねられていく…。
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江國香織さんのスイートリトルライズ読了。
中学生のときに「きらきらひかる」をはじめて読んで好きになった小説家さん。
当時はまともな恋愛経験も無くて、たしか同名の違う作品と間違えて図書館で借りたんだったと思う。
それから大人になるまで、時々本を購入して読んだりしている。
文章が詩のようでとてもキレイでいつも引き込まれるように読んでしまう。
今回の「スイートリトルライズ」もあっという間に読み終えた。
ただ、う~ん。
今回はどの登場人物にもあまり共感ができず読んだ後もあまり良い気持ちはしなかった。
主人公の瑠璃子も夫の聡も
「おいおい、きれいな感じで浸ってるけどやってることめちゃくちゃだぞ…」
と思ってしまった。
表現がきれいな分、実際の行動が欲深く感情的で幼稚で目立ってしまう。
特に聡!頭の悪そうな後輩の女の子にまんまと引っかかりながら、他所の女を抱くことで妻との関係を大切にしているような
気分になっているこの男がとにかく嫌いだった。
でも、それもこの二人が感じているような感覚を私も味わったことがあるからかもな…と思い過去の自分に少しだけ嫌悪。
聡の妹の文も、非常識でデリカシーの無い女の子という感じで登場するたびにザワザワして嫌な気分にさせられた。
唯一、瑠璃子の不倫相手である「津川春夫」だけが私の心の救いだった。
春夫の子供のようなところや情熱的なところを出会った当初の夫に重ねてしまい登場するたびに少しドキドキした。
ただ、瑠璃子は春夫を選ばなかった。
はじめからその展開を予想できてはいたけど
(今まで同作者の作品で登場する男女の関係が私の願うような形になった試しがないように思うので)
すごく悔しくて寂しい気持ちになった。
私は春夫を選んだ女だからかな。
だけど、最初から最後までテディベアや甘いお菓子や窓から見える月やしっとりした夜の空気がある世界に浸っていられて
読んでいるのはとても心地よかった。
「毎日つわりで便座に顔を突っ込みスッピンによれたTシャツと短パンで息子の世話をする髪ぼさぼさの33歳主婦」から「馬鹿な女」になった気がした。
個人的に「馬鹿な女」は私の考える良い女の最上位に君臨するものだ。
対照的に「賢い女」には絶対になりたくない。
嫉妬深く、感情的で、非論理的で非常に欲深い。
政治や経済のことなんかよくわからない。
ただ、男に愛されることだけが目的の女。
私はそうありたいと思っているけど、年々そうじゃなくなってる気がする。
息子のことを考えて、仕事のことを考えて、家庭をどうしたらうまく回せるか努力したいと思っているうちに少しずつでも
「賢い女」に向かっている気がしてちょっと怖くなったりする。
私は夫のことだけを考えていたいし夫が「一緒に死のう」といえばすぐに一緒に死にたいしとにかく夫にあげられるものすべてをあげたかったはずなのに。
でも、「スイートリトルライズ」を読んで少しだけ「馬鹿な女」を取り戻せた気がした。
便座との友好関係はまだ健在だけど、毎朝髪は梳いて夫の帰宅前には軽くメイクをするようにした。
未だかつてないほどの極貧生活で、洋服なんか買えないので相変わらず部屋着はよれたTシャツに短パンだけど首から上が整えば少しは「女性」として認識してもらえるだろうか。
瑠璃子が居心地が良すぎると感じた春夫の部屋。
私はそこにずっとずっと居たいと思った。