1年夏から聖地を知り尽くす左の長距離砲に期待は膨らむ。猛虎からの4位指名を控室で見届けた智弁学園・前川右京外野手(18)は、小坂将商監督や井元康勝部長とグータッチを交わし、喜びを分かち合った。一部で中日ファンとも言われていたが「阪神で活躍する気持ちが強くなりました。(阪神は)好きです」と屈託なく笑った。


スイングスピード、飛距離、打球音、骨太の体格。左右の違いはあれ、どれをとってもOBの巨人・岡本和を想起させる大器だ。今夏の甲子園2回戦・横浜戦でバックスクリーン左へ放り込むと、3回戦の日本航空戦でも一発。6試合で22打数10安打7打点、打率・455をマークし、チームの準優勝に尽力した。法大、松下電器で活躍した指揮官もその実力を認める一人だ。


「右と左の違いはありますが、球をとらえる力、飛距離は岡本とそん色ありません」


同校グラウンドの右翼にある防球ネットは高さ30メートル。その最上段に打球をぶち当てるのは朝飯前だ。金属バットも数本ヒビが入ったこともあるという。ごつごつの手で握る特大おにぎりを間食と寝る直前に数個ほおばり、パワーアップにも成功した。体重は1年夏の74キロから15キロ増の89キロ。寮住まいのため、母・敦子さん(46)が毎月送ってくれる特大ハンバーグでビッグな男に成長した。


右の側頭部に大きな傷痕がある。まだ生後3カ月の時。ベビーベッドから落ち、2度の手術を行った。物心がついた頃、両親から伝えられた。「2度目の手術の成功率は25%だったんだよ」……。だからこそ、感謝の思いは尽きない。「小さい頃から自分のことを第一に考えてくれた家族にありがとうといいたい」と頭を下げた。


聖地の申し子と言っていい。甲子園は1年夏、2年夏の交流試合、3年春夏と計4度出場。大きなアドバンテージがある。「人より多く打席に入っているので、距離感や雰囲気は分かるし、そこは誰にも負けない。高校ではあと一歩で日本一をとれなかったので、日本一に」。大志を胸に秘め、荒波に飛び込む。


【前川右京ってこんな選手】


★生まれ…2003年(平15)5月18日生まれ、三重県津市出身の18歳。


★競技歴…白塚小1年から白塚バッファローズでソフトボールを始め、投手で6年時に全国大会出場。一身田中では津ボーイズに在籍し、投手と外野手で3年時に全国大会出場。智弁学園では1年春から主力で、甲子園は同年夏、2年の交流試合、3年春夏と計4度出場。


★今夏の甲子園で2発…2回戦の横浜戦でバックスクリーン左へ放り込み、3回戦の日本航空戦では右翼へ一発。6試合で22打数10安打7打点、打率.455をマークし準優勝に貢献。


★好きな打者…オリックス・吉田正。


★家族…両親と兄。2歳上の兄・夏輝さんは三重県の津田学園出身で甲子園でも活躍。


★趣味…筋トレ。


★好きな食べ物…母親が作るハンバーグ。


★右京…名前は右京。右京といえば、大人気の刑事ドラマ「相棒」で俳優・水谷豊演じる杉下右京が有名。「名前は画数と響きで決めたようです。気に入っています。たまに相棒とか言われます」。