阪神が得点打を浴びたのはすべて第1ストライクだった。順に示す。


▽1回裏1死満塁、オスナ/左前適時打=初球。


▽3回裏先頭、青木宣親/中越え本塁打=初球。


▽5回裏先頭、塩見泰隆/中越え本塁打=1ボール0ストライク。


▽5回裏無死満塁、オスナ/中犠飛=初球。


▽6回裏1死二塁、塩見/中越え二塁打=初球。


▽6回裏1死一、二塁、山田哲人/左前適時打=3ボール0ストライク。


見事なまでに初球など第1ストライクを打たれている。特に塩見やオスナは初球から積極的に打ちに来る打者だ。当然、捕手・梅野隆太郎や各投手も警戒していただろうが、結果は甘かった。


何度も書いてきたが、初球は打者有利のカウントだ。古今東西、第1ストライクの打率は最も高い。リード面で野村克也も<初球は難しい>と『野球論集成』で記した。<慎重かつ大胆に入るべきだ>。


問題だったのは4-4同点の6回裏だろう。投手はラウル・アルカンタラ。中米出身の投手は大胆さが勝りすぎる傾向にあり、捕手や周囲が慎重さを引き出したかった。


先頭の元山飛優に左前打され無死一塁。代打・嶋基宏は送りバントが見えていたが、あっさりと捕前に転がされた。簡単に送らせてはいけない場面だった。直後の初球、決勝打を放った塩見は「いいリズムをつくってくれた」と話した。阪神が与えたリズムだった。


バッテリーは慎重さを欠いていたのか。いや、コーナーを突こうとして9四死球を与えている。慎重だったのだ。


ただ、慎重と大胆、どちらも過ぎてはいけない。塩梅の問題だ。野村が初球や第1ストライクをはじめ、1死、守備・走塁の一歩目……などを総じて言う<「一」の哲学>である。


打線は残塁の山だった。4度の満塁機をものにできたのは4回表、中野拓夢の中前2点打だけ。昔の野球記者がよく書いた「満塁地獄」である。


放った15安打のうち、第1ストライクを仕留めたのは2本だけ。目立ったのは見送りだった。


天王山の大一番。垣間見えたのは1球で仕留める集中力と、勢いからくる優勢劣勢の心理の差だった。阪神はよく戦ったが、ヤクルトの勢いに押されっぱなしだった。


阪神も必死だった。いちいち書かないが、たとえば、佐藤輝明は届かぬ邪飛に飛び込んでいった。最後の攻撃では島田海吏も中野もボテボテ内野安打に一塁へ頭から突っ込んでいった。新人も若手も震えるような緊張感のなか、熱い心で戦っていた。


ただし、優勝は遠のいた。現実を受けいれ、前を向く。大切なのはこれからの姿勢である。あの熱い心を持ち続けて最後まで戦えるか。今後はそこを見ていきたい。