終戦前夜、思うことはただひとつ…矢野燿大監督(52)率いる阪神はチームを総点検し、足りない部分を補強、改修しなければ今後も『善戦マン』からの脱皮はできません。阪神は首位決戦の第1戦(8日のヤクルト戦)に1対4で敗れ、自力優勝の可能性が消えました。ヤクルトに優勝マジック「11」が点灯。ヤクルトが残り試合を8勝8敗で終えたとしても、阪神が勝率で上回るには残り13試合を11勝2敗で行かなければなりません。剣が峰の状況ですが、前半戦終了時(84試合で48勝33敗3分け)には有利だったV構想はなぜ崩壊したのか。3年連続Aクラス入りの矢野阪神がそれでも優勝に手が届かない理由はなにか…。阪急阪神ホールディングス首脳は早急にチームを解剖、大手術すべきですね。


■矢野阪神は終戦前夜


いよいよ土俵際に追い込まれました。8日のヤクルト戦に1対4で敗れた瞬間、阪神は自力優勝の可能性が消滅し、ヤクルトに優勝マジック「11」が点灯しました。阪神がヤクルトとの直接対決4試合を含む残り13試合に全勝しても、ヤクルトが他の残り12試合で11勝すれば勝率で上回れないのです。ちなみに阪神13連勝でも勝率6割1分。ヤクルトは11勝5敗で勝率6割1分4厘。数字を書けば書くほどややこしいですが、簡単に『難易度』を表現するなら、ヤクルトが残り8勝8敗なら、阪神は11勝2敗が必要…。コレを見れば、もはや矢野阪神は終戦前夜…ということがハッキリと見えてきます。


実は9月中旬、球団の関係者に嫌みタップリにこう話しました。


「今年、阪神が優勝できないようであれば、この先阪神は100年という表現はオーバーでも20年くらいは優勝できへんのではないですか」


「まあ、そう言うなよ…まだまだ分からんぞ」


そんなやり取りだったと思いますが、どうして今年の優勝を逃せば、当分は優勝はムリ!と思ったのか…。それは多くの阪神ファンの思いと同じではないでしょうか。


阪神は東京五輪によるペナントレース中断前の前半戦終了時、84試合を消化して48勝33敗3分けで首位でした。3月26日の開幕ヤクルト戦に4対3で勝利し、その後も進撃を続けました。原動力は3人のルーキーです。



■ルーキーの「大」当たり年


まずドラフト1位の佐藤輝明内野手が豪快なアーチを連発。前半戦だけで23本塁打を放ち、プロ野球新人記録の31本塁打(清原、桑田)などは簡単に塗り替えると思っていました。さらにドラフト2位の左腕・伊藤将司も20試合登板時点で8勝7敗、防御率2・67。先発ローテーションの一角を担い、安定した投球を続けていますね。そして、もう一人はドラフト6位の中野拓夢内野手。遊撃のポジションに定着すると、122試合出場時点で打率2割7分2厘、1本塁打、33打点。盗塁は26で近本(23盗塁)を抑えて、リーグトップです。


阪神のドラフト史を見てきた者として、これほどルーキーが大活躍したシーズンなど見たことはありませんね。投打に3人の新戦力が出現したことで、チームは勢いづいたわけです。


「今年はドラフトの当たり年…いやいや大当たり年だよ。他球団でのルーキーの活躍は見受けられる。DeNAの牧や広島のストッパーの栗林など…。でも、阪神は3人も新人王レースに加わるような活躍。こんな年はそうそうないよ」とOBは話していましたが、矢野監督ら現場首脳陣からすれば、まさに『大ラッキー』なシーズンともいえるでしょう。なにしろ主力で使える選手が3人も増えたのですからね。


■昨季のビデオのような不振


ところが、後半戦に入るとチームは失速。ヤクルトとの初戦(8日)に敗れた段階で、後半戦は22勝20敗4分け。対するヤクルトは前半戦を貯金10でターンすると、後半戦は25勝12敗7分けのハイペースで勝ち続けたのです。


表面的な現象を見れば、失速の最大の原因は佐藤輝明の失速です。あれだけ豪快なスイングからアーチを連発していたのが『まぼろし~』だったかのように、振れども振れどもバットとボールは遭遇しません。10月5日のDeNA戦でヒットを放つまで、59打席連続ノーヒットだったのです。8月21日の中日戦でヒットを放って以降、NPBワーストのノーヒットが続くとは、誰が想像したでしょうか。


さらに前半戦の打線を支えたサンズが今季も、終盤戦で低迷しました。昨季も10月、11月の打率が1割台に低迷しましたが、今季も9月以降に大スランプ…。


「サンズはバットの振りが明らかに鈍くなった。昨季もそうだが、直球に差し込まれてしまい、バットに当たっても飛ばなくなったんだ。差し込まれているのが自分で分かるから、タイミングを速めにとる。すると今度は緩い変化球に対してバットが止まらなくなるんだ。悪循環の傾向も昨季と同じだ」とはOBの話です。



しかし、こうしたさまざまな問題点を補い、チームの勝利に向けて最善の策を打ち続けなければならないのは矢野監督ら首脳陣の仕事です。例えば佐藤輝明の打撃を春季キャンプから見続けている打撃コーチ陣はどこに問題があるのかを指摘し、早く不振から脱出させる手立てを打たなければなりません。サンズに対しても同じことが言えるでしょう。まるで昨季のビデオを見ているような不振であるならば、その原因を分析して、矯正するのがコーチの仕事でしょう。


阪神は130試合を消化した時点でチーム失策数が81です。もちろん?12球団でワーストです。記録に表れない守備のミスはもっとあります。コレもどうなのでしょうか。阪神は昨季も120試合制で85失策。もちろん12球団ワースト。2年前の2019年も143試合で102失策。もちろん12球団ワースト。これで3年連続で12球団最悪の失策数なのです。


釈迦に説法ですが、プロ野球の試合において、本塁打連発の大勝とか、先発投手の完投、完封で勝ち切る試合はごく一部です。後の試合は接戦の中で勝利をつかむ展開がほとんどです。特に優勝がかかった終盤戦においては、小さなミスをした方が負ける…そんな試合展開が続くのです。


阪神が優勝争いの佳境で競り勝てない結末と、守備の乱れが放置?され、改善の兆しが見受けられないこととは無関係ではないでしょう。昨季も、2年前も守乱で悩んだのに担当コーチのテコ入れもなく、刷新もなく、練習方法に目新しいメニューもなく、今季に至った時点で結果は見えていたのかもしれません。


■脱『善戦マン』のための施策を


矢野監督は今季が監督就任3年目です。契約最終年ですが、すでに藤原崇起オーナー兼球団社長(69)は7月15日に「そういう時期が来ればじっくりやっていきたいな、考えていきたいなと。それはまたそういう日が来れば、そうさせていただきたいな」と明言を避けながらも、矢野監督への続投方針を明らかにしました。そして、9月18日には「一昨日、(矢野監督に)来季もお願いしたいという話をした。非常に素晴らしい戦いぶりで、いろんな手を打って頑張ってくれている」と話し、9月16日に続投を要請したことを明らかにしています。


ただし、具体的な条件(契約年数や年俸など)はシーズン終了後に話し合うとしています。矢野監督は監督3シーズン全てでAクラス入り。就任初年度から3位、2位、2位(10月10日時点)です。阪神監督としての成績で見るなら、歴代の監督と比べても安定した数字です。しかし、3シーズン全てであと一歩、優勝に届かない『善戦マン』でもあります。どうして善戦するのに『V監督』になれないのか。何が足りないのか、何がダメなのか。ここは「よくやってくれてますね」ではなく「どうして、あと一歩で優勝に届かないんだ」という視点でチームを総点検し、『善戦マン』脱出のための施策を打っていただきたい。



タイガースの現在地は阪急阪神ホールディングスのエンタテインメント事業に属しています。2006年(平成18年)6月、阪急ホールディングスが阪神電鉄を傘下に収めて以降、タイガースの『本当』の親会社は阪急阪神ホールディングスです。そして、阪急阪神ホールディングスの傘下になって以降、タイガースはまだ一度もリーグ優勝を遂げていません。『阪急側』は現状を忸怩たる思いで見つめているといいます。ならば、矢野阪神の終戦前夜に行うべき方向性は定まっているはずですね。現状を放置するならば、本当にこの先、20年ぐらいは優勝できないかもしれませんよ。