矢野燿大監督(52)よ、死闘を勝ち抜くポイントは全てアナタの采配にあります。阪神は9月戦線を10勝9敗4分けで終了し、東京五輪によるシーズン中断後の後半戦は17勝18敗4分け(9月30日現在)です。前半戦84試合を貯金15で走った勢いは消え、ヤクルトとの熾烈な優勝争いは今季最終戦(10月24日=広島戦)までもつれるかもしれません。打線では佐藤輝明内野手(22)の不振が長期化。リリーフ陣にも綻びが見えます。しかし、もうここまできて誰がどうした、こうした…ではありません。指揮官は全ての戦力を使い切り、絶対に勝たなければなりません。死闘を制すれば歴史にその名は永遠に残ります。勝つか、負けるか…で、その後の監督人生は大きく変わるでしょう。


■停滞傾向にあるチーム力


いよいよ激しい優勝争いは10月にもつれ込みましたね。阪神は9月30日の広島戦に4-5で敗れて、同一カード3連敗を喫しました。それでも1・0ゲーム差の首位ヤクルトもDeNAに連敗し、ゲーム差は動かず…。これで阪神は9月戦線は10勝9敗4分け。8月(13日からペナントレース再開)が7勝9敗でしたから、東京五輪による中断後の後半戦は17勝18敗4分け(9月30日現在)です。


この成績をどう見るのか…。当然ながら、チームの周辺には危機感が漂っています。なにしろペナントレース中断前は48勝33敗3分けで貯金15だったわけですから、前進や停滞…というよりも後退…ですよね。


「夏場以降、何といってもルーキー佐藤輝の打撃不振が痛いよね。前半戦を引っ張ってきた怪物ルーキーが別人のように打てなくなった。一時期、2軍に落として再調整させたけど、1軍に再昇格後もサッパリ打てない。それに9月に入って以降、サンズもピタッと打てなくなって、得点能力がガクンと落ちてしまった。現状は近本と中野の1、2番コンビが頑張っているけど、ポイントゲッターが打てないので勢いに乗れないんだ」とOBの一人が話せば、別のOBは「投手陣も岩貞や岩崎が打たれ、抑えのスアレスも前半線のような絶対的な安定感が薄れてきた。及川が頑張っているのが目立つけど、やはりリリーフが不安定」と指摘していました。


誰がどう見ても、チーム力が停滞傾向にあるのは間違いなく、現状は優勝争いをしている…というよりも優勝争いに『踏みとどまっている』感じでしょうか。



■高津監督の先を読んだ采配


最終盤を迎えた優勝争いはヤクルト、巨人、阪神の3球団による争いから巨人が脱落気配です。巨人は9月に入り、打線が低迷。6勝14敗5分けと大きく負け越しました。最大15あった貯金も6に減り(9月30日現在)、ベンチ裏には『秋風』が吹き始めたといいます。一方のヤクルトは9月は13勝8敗5分け。9月28日には10年ぶりの9連勝と「13試合連続負けなし」の球団新記録をマークしました。現時点では阪神の相手はヤクルトですね。


2015年以来、6年ぶりのリーグ優勝を目指すヤクルトの高津臣吾監督の後半戦の戦いには「大きな特徴が出ている」という球界関係者がいます。


「ヤクルトの先発投手陣の起用法だ。奥川、高梨、高橋、石川、小川、スアレス、サイスニードら先発陣の駒数を増やし、登板間隔を中6日以上きっちりとあけて投げさせている。先発の登板間隔を中5日とか中4日に縮めた原巨人とは真逆の采配だ。投手出身の高津監督らしく、投手にタップリと休養を与えて万全の状態でマウンドに送り出している。そして、登板間隔をあけることで疲労度も違い、シーズン終盤まで先発投手を万全の状態で回すことができる。先を読んだ采配だろう」


なるほど、ヤクルトの先発投手陣の登板間隔は中6日以上、場合によっては中10日という投手もいます。体力を十分に回復させてから次のマウンドに向かわせる…という高津采配が熾烈な優勝争いの最後の最後で効いてくる…と見る球界関係者がいるのです。


相手球団の監督采配を評価していても仕方ありませんよね。そうした高津ヤクルトと競り合い、阪神は最後には勝たなければ意味はありません。せっかく前半戦から首位を走り、2005年以来16年ぶりの優勝の期待が膨らんできたのに、最後はまたも敗者…というのでは、ファンの落胆も大きいでしょう。


最後の最後、勝者になるのか、敗者なのか…。全てのカギを握っているのは当然ながら矢野燿大監督ですね。佐藤輝やサンズの不振、リリーフ陣の疲労…などチーム内には難題があるのでしょうが、それを克服して勝利に結び付けるのが監督の手腕です。阪神が優勝にたどり着けるのか、敗退するのか、指揮官の選手起用や采配が全てを決めるポイントです。



強烈な思いが雑念やプレッシャーにもなる

古い話をして恐縮ですが、あれは1992年、阪神は中村勝広監督の下、最後まで野村克也監督率いるヤクルトと優勝争いを続け、最終的には67勝63敗2分けの2位に終わりました。逆に野村ヤクルトは69勝61敗1分けで優勝。ヤクルト監督としてノムさんは初優勝を飾り、その優勝が翌93年の連覇など都合4度のリーグ制覇、2度の日本一に結び付いたのです。逆に阪神は暗黒時代に逆戻り…。まさにその後の明と暗をクッキリと分けた92年の勝ち負けでしたね。

思い出されるのが、シーズン終盤に来ての中村監督の采配です。シーズン序盤からチームに勢いを与えた新庄に代打を送り、打撃コーチと一悶着あったかと思えば、天下分け目のヤクルトとの神宮決戦では先発ローテーションの軸だった湯舟を抑えで起用し、投手コーチの離反を招きました。

目の前にある「優勝」の二文字が励みにもなる一方で「勝ちたい」という強烈な思いが、雑念やプレッシャーにもなる。厳しい局面であればあるほど、監督采配によって、戦局やベンチのムードは180度変わってくるのです。10月戦線を迎え、なぜか92年のヤクルトとの死闘を思い出します。なので、矢野監督の采配、選手起用や戦術が今後の最大のポイントになる…と見るわけですね。

終盤に来ての矢野監督の采配にはさまざまな声が出ています。

「前半戦のように近本や中野ら機動力を駆使する場面が少ない。もっと選手を動かさないとダメだ」という声。「サンズやロハスがダメなら、高山や江越ら生え抜きの選手を起用してみたらいいのでは…」という声。「最後はやはり藤浪を1軍に上げて、起用してみたら…」という声。もう『外野』からは色んな声が飛んできています。これも人気球団の宿命でしょうか。

こうした声にひとつひとつ応える必要はありませんね。監督は自身の野球観を大事にして、チーム内の状況を最も知る者として、最善手を打ち続けるしかありません。その結果が「勝者」なのか「敗者」なのかで矢野監督は結果責任を負うだけのことです。

29年前のあの時、リーグ優勝を果たしていれば中村監督のその後の監督人生は大きく変わっていたでしょうし、野村監督の監督人生も大きく違っていたはずです。勝つか、負けるかで矢野監督の監督人生も大きく変わるでしょう。それほどの覚悟を持って、残り20試合に勝負を懸けてほしいものです。