大相撲の第69代横綱、白鵬が現役を引退する。2016年3月14日の春場所2日目。横綱として単独1位となる671勝目を挙げた白鵬の帰りを待っていたのは新外国人として阪神に加入し、妻エリカさんと桝席で観戦していたヘイグだった。


横綱はヘイグと、もちろん初対面。「オメデトウ」という日本語での祝福に「きょうで一番になったよ」と、笑顔でナンバーワンのポーズとともに記念撮影してくれた。


かち上げや張り手、ガッツポーズなど、最後は荒々しさばかり目立っていたが、それも横綱の宿命。場所中は不眠症に悩まされ、取組のことを考えると心臓が痛くなるほどナイーブだったそうだ。頂点を極め、勝負師というお面を外せない自分と、常に戦っていたのも大変だったはずだ。


「記者として駆けだしの頃、横綱に初めてあいさつしたときのことを思い出します。名刺を渡した後、握手をしてくれました。めちゃくちゃ柔らかい手で驚きました」


虎番サブキャップの新里公章は元大相撲担当。外から『敵』を持ち込まないという験担ぎでスキンシップを好まない力士もいる中、白鵬は積極的にコミュニケーションを図ってくれたという。記者という職業は「取材相手を観察せよ」と言われるが、「取材相手から観察される」ようになると、やりがいを感じてくる。新里は「朝稽古の取材では部屋を掛け持ちしなければならず、横綱の稽古のスタートに間に合わないことがありました。途中から忍び足で入っていったのですが、見られていまして…。あとで横綱から怒られました。今となれば、いい思い出です」と懐かしそうだ。


白鵬が初心者マークをつけていた新里に『触れた』という行動は虎を率いる矢野監督の人心掌握術にもリンクしている。


「人と話すときって、どういうポジションで話した方がいいと思う?」


矢野監督からクイズを出されたことがあった。真正面すぎると対立してしまうような構図になるからよくないと聞いたことがあった。滝川クリステルさんのような斜め45度!?虎将の答えは…。


「いや、違う。真横がいいねん。話しながら、ポンッて肩や背中を触ったりね。そうしたら、相手はスッと聞き入れやすくなったりする」


ごくわずかなスキンシップが相手の心をほぐす。選手がミスを犯せば当然、指摘しなければいけないのが首脳陣の立場。ただし、厳しい言葉をただ投げつけるだけではなく、選手と同じ目線で、同じ『温度』で指導する。それが矢野流だ。


もちろん、プロ野球の世界は勝てば官軍。監督がどれだけワンマンでも結果がすべて。それでも、26日の巨人戦のヒーローインタビューで糸井が「監督を胴上げする」と宣言する姿を見ると、矢野監督の心理術が成功しているのだと感じる。


秋晴れの甲子園では午前中から青柳、秋山、ガンケルら先発投手陣の練習が行われ、虎番の織原祥平が取材に出向いた。


「青柳さんらがノックを受けていたり…。野手は休日だったんですが、何人か来ていて、外野の芝を走ったりしていました。いい雰囲気ですよ」


最近2週間で先発陣に白星がついたのは復活した高橋の2勝のみ。ともに10勝をマークし、最多勝争いをしている青柳、秋山も足踏みが続いている。28日からは広島、中日と下位チーム相手の6連戦。しかも、舞台はすべて甲子園だ。地に足をつけ、まさに『すり足』のような野球ができそうだ。横綱野球で、首位奪回のウイークにしよう!