猛虎の切り込み隊長・近本光司外野手(26)が首位打者&MVP獲得ならば、大激戦の優勝争いを制するのは矢野阪神でしょう。日々の勝敗で目まぐるしく順位が変動する優勝争い。阪神がヤクルト、巨人との戦いを勝ち抜く戦力的な基盤のひとつが1番・近本の走攻守です。阪神のここ3度のリーグ優勝(85年、03年、05年)の年は決まって1番打者(真弓、今岡、赤星)が大活躍。チームを牽引しました。112試合出場時点で打率3割1分1厘、9本塁打、42打点、73得点、21盗塁の近本が最後まで奮闘し、首位打者獲得でリーグVならば、スアレスを抑えて最優秀選手賞獲得も…。ヤクルト&巨人をたたきのめすのは近本光司です。


■評価したいスカウトの人脈づくり


本題に入る前に、少し?だけ横道にそれます。阪神は16日に嶌村聡球団本部長が陳謝しました。球団の山本宣史スカウトが、奈良・天理高のエース達孝太投手とプロ志望届を提出した10日よりも前に面談していたことについてです。


「当球団のスカウトが、プロ志望届の提出が完了していない選手と面談を行ったことにより、当該選手、当該高等学校ほか関係者の皆さまにご迷惑をお掛けしてしまい、深くおわび申し上げます。二度とこのようなことが発生しないように管理体制を強化してまいります」


達は193センチの長身から最速150キロの直球を投げ込む本格派右腕。10月11日のドラフト会議では上位指名候補です。注目される投手に対して、プロ野球とアマチュア球界が定めたルールを破って、スカウトが第三者から見れば『抜け駆け的』に接触したわけです。阪神は全スカウトに厳重注意を行い、改めてルール順守の徹底を通知しました。日本野球機構は21日の12球団代表者で全球団に注意喚起を行う方針ですね。


決められたルールを結果的に破ったことは大いに反省してもらわなければなりません。ただ、今回のケースは「非があるとすれば、天理高側が8で阪神は2ぐらいの割合ではないか」という球界関係者の声もあります。すでにプロ入りの意思を固めている達はプロ志望届を出す予定にしていました。同校の中村良二監督ら野球部関係者はプロ志望届を出す選手に関しては、提出前でもスカウトと面談できる…と勘違いしていたフシがあります。なので悪気はなく、山本スカウトとの面談を設定したわけです。


一方、プロ側は当然ながら球界のルールを熟知しているはずで、達がプロ志望届を提出しているのか否かを確認しなければなりません。ここに阪神側の最大の落ち度があるわけで、これは猛省してもらわなければなりません。会う前に志望届を出したのかどうか確認する…。確認作業は電話一本で済む話です。



ただ、かばうわけではありませんが、では、どうして山本スカウトは簡単な確認作業を怠ったのか…。ここに最大の謎がある!?と表現すればミステリアスですが、答えは簡単でしょうね。中村監督は同校から1987年に近鉄に入団し、プロ野球選手として97年までプレーしていますが、最後の1シーズンを阪神で過ごしています。そうした野球人生の中で山本スカウトとは昵懇の間柄になったようです。なんでも話し合える間柄で、今回の件も友達感覚で「会える?」「ああ、ええよ」的な展開だったと思われます。


だから物事を肯定するのか!とお叱りの言葉が飛んできそうですが、スカウトがそこまでアマ球界の指導者たちと昵懇の間柄になっていることは評価してあげたいですね。ルールに基づいて、これからもアマ球界の関係者としっかりとした関係を築いてほしいですし、地道な努力が見えたことを少しうれしく感じました。繰り返しますが、だからといってルール破りは絶対にダメですよ。


■目の前の試合をとにかく勝ち切る


さて、本題です。阪神は112試合消化時点で61勝46敗5分けの勝率・570で首位。残りは31試合ですね。2位はヤクルトで107試合消化時点で52勝42敗13分けの勝率・553。ゲーム差は「2・5」です。3位の巨人は113試合消化時点で54勝44敗15分けの勝率・551。同じく阪神とのゲーム差が「2・5」ですね。ヤクルトは残り36試合、巨人は30試合です。


今季は勝ち数ではなく、勝率で争うため、引き分けの多いヤクルトと巨人と、引き分け数がわずか「5」の阪神の勝率は難しい計算になります。ただし、やらなければならないことは上位3球団ともに全く同じです。目の前の試合をとにかく勝ち切ることですね。


では、まれにみる3球団による大激戦を制する阪神の戦力的な基盤はなにか。大きな柱のひとつは切り込み隊長・近本の存在でしょうね。ここまで112試合出場時点で打率3割1分1里の9本塁打、42打点、73得点。盗塁数は同僚の中野の22個に続く21個です。142安打はリーグトップの数字ですね。


「前半戦を支えた佐藤輝が2軍落ちし、サンズも調子落ち。大山もチャンスで打てないことが多い。打線の厚みからすればヤクルトや巨人に劣っている。それでも阪神には近本がいる。1番打者が元気でチームを引っ張っていけば、なんとかなる」とは球界関係者の話ですが、9月中旬を迎えた現在も打線の中で最も元気な打者は近本です。打撃成績はリーグ4位。盗塁数はリーグ2位。得点73はダントツのリーグトップ。このまま好調をキープし、首位打者を獲得&チームがリーグVならば、抑えのスアレスと最優秀選手賞を競うはずです。



■充実のプロ3年目、最高のシーズンに


阪神の最近3度のリーグ優勝時には、決まって1番打者の活躍がありました。最近といっても、もう36年前ですが、1985年には核弾頭・真弓が119試合出場で打率3割2分2厘、34本塁打、84打点、108得点です。本塁打、打点、得点はすべてキャリアハイですね。


2003年の星野阪神でのリーグ優勝時は1番・今岡が120試合出場で打率3割4分、12本塁打、72打点、67得点。二塁打を35本も打っています。そして、05年の岡田阪神での優勝時は1番・赤星。145試合に出場して打率3割1分6厘、1本塁打、38打点、119得点の60盗塁。盗塁王に輝いています。塁に出れば果敢に走り、得点を荒稼ぎしましたね。


阪神は球団史を振り返っても、元気な1番打者が存在しているときは強いです。あの暗黒時代でさえ、優勝を争った92年(67勝63敗2分けで2位)にはヘッドスライディングでチームに新風を吹き込んだ亀山が和田豊とともに1番を務めましたね。


前半戦の躍進を支えたルーキー佐藤輝が打撃不振で10日に2軍落ちしましたね。果たして最短の再登録期日(20日)後の21日の中日戦で1軍に復帰できるのか。彼の打撃がどうしても10月上旬の関東遠征ではほしいはずです。敵地でのDeNA3連戦、ヤクルト3連戦と巨人3連戦の9試合はいずれも狭い球場です。打ち合いになるでしょう。ポイントゲッターに佐藤輝が戻っていれば、打線の厚みは増します。と同時にチャンスメーカーとして近本が塁上をかき回せば、勝機は広がりますね。


近本はドラフト1位入団で今季が3シーズン目となりますね。プロの水にも慣れ、相手バッテリーの手の内を熟知した今シーズンはまさに充実の一途です。チームともども最高のシーズンにしてほしいですね。