監督の采配で勝つ試合って、年間どのくらいあるものなんですか?

アホな質問だなと思いつつ、古葉竹識さんに聞いたことがあります。広島を率いた1985年までの11シーズンで優勝4度(日本一3度)、2位が3度、3位が2度、Bクラスは2度しかなかった名将は「なんね、その質問」と笑いながら即答してくれました。

「そんもん、年に5試合もありゃあせんよ。その代わり、負けた試合は全部、監督のせい」

謙遜して控えめに言っていると思いました。なにしろ、1死三塁からヒットエンドランを仕掛けたりする監督でしたから。それでも、年に5試合近くはあるのかと驚いて聞いていました。

「監督で勝ったゲームと言われたら、俺も忘れられん試合がある」

編集委員三木建次がそう言って振り返ったのは、2005年9月7日の中日戦です。5月から首位を快走していた岡田阪神を落合中日が猛追。3ゲーム差で迎えた2連戦は、6日の第1戦がエース井川で●2-5。2ゲーム差に詰め寄られていた大一番でした。

3-1の九回。抑えの久保田が無死二、三塁のピンチを招き、谷繁の二ゴロで三走アレックスが本塁へ突入。微妙なタイミングでしたが判定はセーフ。捕手の矢野が激しく抗議し、岡田監督もベンチを飛び出し、球審橘高に詰め寄る。止めに入った平田ヘッドコーチが退場処分になり、岡田監督が選手をベンチに引き揚げさせた試合です。

「18分後に再開されて、犠飛で同点。エラーと井端敬遠で1死満塁。そこで、監督2年目で初めてマウンドに向かった岡田監督からあの言葉が出たんや」

「打たれてええ。むちゃくちゃしたれ。こんなんで負けても、お前のせいやない。インコース攻めろ。ぶつけてもええ。むちゃくちゃ放ったれ。責任は俺が取る」

ゲキに燃えた久保田が渡辺博、ウッズを連続三振。延長に突入し、十一回、中村豊が決勝ソロ。落合監督が「きょうは監督の差で負けた」と言った試合を機に阪神は優勝へ再加速したのです。

「監督の気合で勝った試合やった。岡田監督は『それぞれに仕事の持ち場がある』という考えで、マウンドにいくのはコーチに任せていた。その監督が初めてマウンドに来てあんなことを言うたから、久保田も開き直れたんやと思う」

実はこの原稿、『逆向き』です。ビヤ樽と、9月に中日2連戦だな、優勝争いが佳境に入ってきたな、などと雑談していて、三木は05年の岡田監督を思い出し、私は古葉さんの言葉を思い出したのです。ただ、ビヤ樽はあの試合の九回裏にアツくなっていた捕手、矢野現監督に、同じような『アツい采配』は求めていませんでした。

「いまのまま冷静に淡々とやっていってほしい。今年の阪神は無理をさせずに戦って勝ってきている。調子が落ちたら佐藤輝も2軍で調整させている。巨人の原監督の方が今年は動き過ぎて失敗してるように見える」

この日の中日戦中止もいい方にとらえましょう。難敵の大野雄、柳が先発するうちの1試合が先送りになりました。

「2軍も中止になりました。複雑ですが、1軍の試合が先送りになるのは歓迎です。佐藤輝の復帰後の出られる試合数が増えるわけですから」

2軍戦取材でナゴヤ球場に出張している原田遼太郎も中止をプラスにとらえています。そうです。いい方に考えましょう。東京ドームの2位と3位のつぶし合いは、まず巨人が負けてくれました。え?ヤクルトは勝った?いい方にとらえましょう。2位とまだ2ゲーム差あります。