「ヤクルト4-4阪神」(14日、神宮球場)

内角直球に恐れることなく、踏み込んだ。頭部死球を受けた影響を感じさせない。「やってやろうという気持ちはあった」と中野。打球は詰まりながらも、中前にポトリと落ちた。塁上で右拳を突き上げる。新人らしからぬ強心臓ぶりを、また発揮した。

価値ある適時打は七回無死二塁。フルカウントから粘って、石山の直球をはじき返した。ただ、この打席は少なからず恐怖心があったはずだ。さかのぼること、2イニング前の五回無死。スアレスの150キロ直球が後頭部に直撃した。

ぼうぜんと立ち尽くすスアレス。球場内がざわつく中、両膝に手をついたものの中野は立ち続けた。「当たった場所が頭ということもあったんですけど、大事な戦いですし。ここで、もうプレーができないという気持ちは持ってなかった」。

一度、ベンチに下がったが、表情は柔らかい。171センチと小柄でも、その肉体は強靱だ。平然と一塁へ向かい、その後も全力疾走でグラウンドを駆け抜けた。

「鳥谷さんのようになりたい」。中野が入団時から憧れを抱いてきたのは、歴代2位の1939試合連続出場の記録を持つ鳥谷だ。アクシデントがあってもプレーを続ける姿は、不死鳥・鳥谷をほうふつとさせた。

この日の一打が今季の97安打目。1953年・吉田義男の119安打に次いで、球団新人遊撃手の安打数で歴代2位につけている。「何としても追いつけるように」と、背中を追いかける鳥谷でもルーキーイヤーは59安打。やはり、中野は並大抵の新人ではない。

「とてもいい引き分けなので、この勢いを明日につなげられるように」…。名手が残した伝説の頂まで残り32試合で22安打。虎の正遊撃手として、グラウンドに立ち続けるのは中野しかいない。