「never・never・never・surrender!!」


先日、糸井嘉男選手がインスタグラムの投稿にこの言葉を添えた。なつかしい…。在りし日の星野仙一監督が掲げたチームスローガン(2002年~05年採用)だが、この「ネバサレ魂」で阪神は03年、05年の2度、リーグ優勝した。


「NEVER・NEVER・NEVER・SURRENDER(絶対に絶対に絶対に諦めない)」…。「NEVER」を3つ重ねることで、より強い意味を持たせたという星野監督。その当時、糸井選手は近大3年から日本ハム2年目なのだが、密かに阪神を応援していたのかな。もしかすると、この言葉に力をもらっていたのかもしれない。今、この言葉を提唱してくるあたり「なんとしても優勝するぞ」という糸井選手の強い意気込みが伝わってくる。


そこで今回は優勝をよく知る男に2度の優勝の思い出などを聞いてみた。かつて虎のエースとして大活躍した井川慶さんだ。現在はテレビやイベント、野球教室など活動の幅を広げているが、たまに投げる姿も見せてくれるのが嬉しい。


2003年の井川投手はそれはすごかった。29試合(206回)に投げて20勝5敗。8完投のうち2つは完封だ。6月から7月にかけて4戦連続完投勝利を収め、12連勝も記録した。最優秀防御率(2・80)、最多勝利のほか、最優秀選手賞(MVP)、最高勝率(・800)、ベストナイン、最優秀投手、最優秀バッテリー賞、2度の月間MVPなど数々のタイトルを受賞。そして投手の最高の栄誉である沢村栄治賞にも輝いた。


「前年(02年)にローテーションを守って初めてタイトル(最多奪三振)も取れて、この年は自分がローテの軸で回らなくちゃいけないって、まず自主トレから一生懸命やった思い出がある。自分がしっかり投げればチームにとってチャンスがあるんじゃないかと思って」



強い意気込みでシーズンに入った。しかし振り返ると「自分が引っ張った認識はまったくない」という。「チームがめちゃくちゃ打ってくれた。5点取られても6点取り返す打力があったんで、それに乗っかったって感じ。野手のおかげ。ほんと、あの打線はすごい。敵じゃなくてよかった(笑)」。控えめに語るが、やはり井川投手の力は絶大だった。最終登板で20勝目を挙げたとき、星野監督から「よう頑張った。ご苦労さん」と褒めてもらったことは、たいせつな思い出だそうだ。


05年は27試合(172回1/3)に登板して13勝9敗。2完投(うち1完封)で防御率は3・86。8月には1000投球回という快挙を成し遂げた。「あまり調子がよくなくて、けっこう打ち込まれたこともあった。とくに優勝を争っていた中日に勝てなくて、すごく迷惑をかけた。その分、シモさん(下柳剛投手)が頑張ってくれて…。大事なところで負けて、チームの力になりきれてなかった」。


とはいえ数多くのイニングを消化し、2桁勝利を挙げているからみごとだ。当時の岡田彰布監督の信頼も篤く、常にかけてくれる前向きな言葉に奮起していたという。


03年は優勝翌日が登板日だったので参加できなかったが、この年は初めてのビールかけをとても楽しみにしていた。しかし、いざ始まってみると…。


「まさかの室内だったんで、臭いがこもりまくって。もともと飲まないんで、まったく。だから臭いと皮膚(からのアルコール吸収)で、あんなにやられるとは。外だったら、きっと大丈夫だった」。会場の隅っこでクタクタになっている姿が気の毒だったなぁ。


でもきつかったけど、楽しかった。あんまり記憶にないけど(笑)


井川さんの話を聞いていると、わたしも優勝の思い出がよみがえってきた。03年9月15日は劇的なサヨナラゲームのリポートをし、そのまま甲子園でナイターの結果を待った。優勝が決まった瞬間、涙があふれてきたのを覚えている。



翌日、練習前の星野監督を待ち伏せした。監督のお母さんが亡くなられた直後だったのでお祝いを言っていいものか逡巡したが、やはり監督の悲願でもあったから「優勝おめでとうございます」と言うと、目尻を下げた監督にギュッと抱き寄せられ、頭をクシャクシャッとされた。そう。あのサヨナラの瞬間、赤星憲広選手がされたやつだ。周りにカメラマンがいなかったのが残念だが、心のアルバムにしっかりと残っている。


05年はビールかけのインタビューをさせていただいたので、井川さんの気持ちがよくわかる。いやほんと、すごい臭いだから(笑)。あらかじめゴーグルを用意していたが、選手の誰かに外され、頭の上から思いっきりビールを浴びせられた。化粧も流れ落ち、悲惨な状態になったが、今から振り返ると超幸せな瞬間だったなぁ。


さて、セ・リーグのトップを独走していた阪神だが、気づけば現在、三つ巴の乱戦状態となっている。井川さんは今季の阪神をどのように見ているのだろうか。


投手陣は開幕から先発ローテーションがゲームを作っていて前評判通りの力を発揮していた。今ちょっと調子悪いけど。打撃陣は新人の中野選手、佐藤(輝)選手が入ってきて、なおかつ外国人の3人で厚みが増している。打のバランスがすごくいい。足の速い選手、それを還す選手っていうように役割を果たしてるんで強いなと思う


もし井川さんが敵の投手なら嫌な打線だという。「どっちかに偏ってると楽。機動力が使えない、打って還すしかないチームだったら楽で、両方あるっていうのは抑え方が難しい」。


では、この混戦を抜け出すには何が必要だろうか。「先発次第っていうのがまずある。3連戦で誰か1人、必ずモノにできる勝ち頭がいれば大型連敗はしない。打撃陣はこのままケガなくやれば大丈夫」


そして井川さんにとっては阪神だけでなくオリックスも古巣である。もしかすると日本シリーズが関西ダービーになるやもしれない。


「自分も前々から言ってたけど、オリックスはほんと超一流の選手が集まってるけど、なぜか勝てない、なぜか。それが今年は噛み合っている。ピッチャーも中心選手がきっちり仕事して、打のほうも若い子が育ってしっかり得点できている。やっと来たかって感じですよ(笑)」


なにより両チームには一緒に戦ったメンバーが数多く在籍している。


「阪神だと糸井、岩田、西(勇)…。あと(矢野)監督やコーチ陣も一緒にやらせてもらったんで。オリックスは若い選手もけっこう一緒にやってる子がいるんで。能見もいるし。だからどっちも頑張ってほしい。楽しみです


さてXデーはいつになるのか。ワクワクしながらそのときを待とう。