「ベルリン・天使の詩」 | シマ猫弾薬庫/紛争まっただ中

「ベルリン・天使の詩」

シマ猫弾薬庫(紛争まっただ中)-1




「ベルリン・天使の詩」


88年公開、西独=仏 


監督 ヴィム・ヴェンダース 


出演

ブルーノ・ガンツ  


ピーター・フォーク  


撮影:アンリ・アルカン




(^・x・^)y─┛~~~~



 上映当時の『ロードショー』のロングラン記録を打ち立てた作品である。


また、鑑賞いただいた若いOL層にはすごく人気のある作品である。


東西ドイツが統合する前のベルリンが舞台です。


ベルリンの壁が現存する光景をじっくり撮影できている作品でもある。


上空から雲の切れ目から見える『霞んだベルリン』の風景は


『タルコフスキー狂』の私としては『見なれた美しき映画のシーン』でもある。


はじめて観た方は、このアンリ・アルカンのカメラワークに


引き寄せられることは間違いないでしょう。



*****(おおまかなプロット)*****



天使ダミエル(ブルーノ・ガンツ)が、親友の天使と共にベルリンを周り


ベルリン市民の心の悩みを聞いてまわる。


天使は「子供」からは姿が見えるが、大人になると見えなくなるという。



(「子供には」見えない翼がついていて


おとなになるとそれが無くなるって奴ですな。)



ダミエルはベルリンを回り、家族の問題や


仕事に悩む人のこころのつぶやきを聞いてまわる・・・。



ダミエルはある時、サーカス団の空中ブランコ乗りマリオン(ソルヴィッグ・ドマルタン)に


恋をする。



天使は人間に恋をすると死んでしまうのに・・(限られた人生の人間になる)。



ただ、この作品は恋愛映画ではない。


シマ猫弾薬庫(紛争まっただ中)-2


「子供が子供だったころ いつも不思議だった


なぜ僕は僕で君でない?なぜ僕はここにいて、そこにいない?


時の始まりは いつ?宇宙の果ては どこ?


この世で生きるのはただの夢?


見るもの 聞くもの かぐものはこの世の前の世の幻?


悪があるってほんと?悪い人がいるってほんと?


いったいどんなだったのか?


僕が僕になる前は?


僕が僕でなくなった後、僕は いったい何になる?」


(ピーター・ハントケの詩)



映画の冒頭で「子供が子供だったころ」とノートに書いて行くシーンから始まる。



●純粋に子供が問いかけ、その問いに誰も明確には答えることが出来ない


『人間』についての本質的な質問。


★『人間はどこから来て、どこに行くのか?』


『生まれる前はどうなっていて』


『死んだ後はどうなるのか?』


「哲学的」でもあり、宗教的(仏教的)であり


人間の生の時間という『刹那的』ではあるが


『永遠』の時という概念を掘り下げるものだ。


『無』から生まれた人間は『有』の存在になり


そしてまた『無』に戻る・・


先にご紹介した「ブレードランナー」の作品のメインテーマでもあったものも


これと同じである。



シマ猫弾薬庫(紛争まっただ中)-3


天使はあくまで人間の傍観者であり、苦しみを持つ人間の肩に手をかけ


安堵の思いを与えることしかできない。


死に瀕した人間の最後に遭遇し、少しやすらかな気持ちを与える・・。


 ダミエルは天使から人間になる。それは人間として、生命をもち


痛みを知り、生身の人間になることにあこがれていたからだ。


彼は初めて見るベルリンの壁に描かれた絵の色に感動し


地味な黒いコートを原色系のブルゾンに着替える。


天使の視界には「色」はない。昔のニュース映像みたいなモノトーンだ。


だからすべてが『鮮やかな色にみちた』人間の「視界」を得た


ダミエルの喜びようは実に素直で、微笑ものだ。



居合わせた人に『あれは何色だい??』と「色」を聞くシーンに(⌒_⌒)。



そして姿が見えなかった天使ではなく、


自身が人間として「ご本人もかつて天使だった」俳優ピーター・フォークに会う。


そして「人間の限られた楽しい人生」を聞く。


「天使から人間になったやつはおおぜいいるんだ・・・・・」



シマ猫弾薬庫(紛争まっただ中)-4


 ダミエルは子供になったようにベルリンの街を回り


バーでマリオンと出会い、結ばれる。



今までの一歩ひいた傍観者の立場を辞して、自分の人生を満喫し


子供のように世界に感動し、幸せを得る。


温かいコーヒー。色とりどりな色彩の街なみ。



「無気色な天使の世界」をすて


『彩られた人間の世界』に踏み入ったのである。




作品中、図書館のシーンがあり


机で勉強する人たちの中に興味深いキャラクターがいる。



このシーンに登場する『ホメロス』のエピソードが一番象徴的に思えた。


「ベルリン」の戦前賑やかだった地域が


すっかり荒れ果てたのを嘆き、自ら「もう声の出なくなった」


不死のホメロス(ギリシャの叙事詩人)と名乗り、


中世の騎士や王様が勇敢に戦う叙事詩ではなく、



現代の平和な世の中に人々をひきつけられる物語はないのか?


と語りかけるのだ・・・。


この作品は、ホメロスに自らを投影したヴェンダース監督が、


『今の世の中で、人を車座にして語りべをするとしたら』


どういう物語を語るのか?という問いかけに対する


監督の答えである。


★『限りある人生』はコーヒーのテイストに似ている。


コーヒーの味わいは「甘いシュガー」だけではない。 


苦い、しかしコクのある風味を十分に楽しめる飲み物である。



カップに温かいコーヒーを注いで飲んでみましょう。(*^ー゚)b



そう「限りある人生」はそこそこ味わい深い、楽しいものですよ・・・・。



「乗船完了!!」


*ヴェンダース監督によると、


タルコフスキー監督、小津監督、トリュフォー監督は


元天使だったそうです。



ドイツ映画再興の旗手として知られ、


一貫してロードムービーにこだわったヴェンダース監督の最高傑作。


「現代のホメロス」が著せる『人生讃歌』でもあります。


女性向きの作品です。