「ゴッチさん」が亡くなった。
 
7月28日、フロリダ州タンパの自宅で、どうやら肺炎をこじらせてしまったらしい。
 
享年82歳。愛犬とのふたり暮らし。いいな、羨ましい。
 
ドイツ系のゴッチさんは、自身もオリンピックで銀に輝いた事もあり、アマレス技の応用と
して、あのプロレス技の芸術品「ジャーマンスープレックス」を生み出した。
 
モンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャンアントをこの技で沈めている。太陽の様なルー・
テーズと月の様なイメージのカール・ゴッチ。
 
しかし力道山の台詞「強ければいいというモノじゃない」 に代表される様に、「プロレス」は
ヘタクソだったらしい・・・。このヘンがまた新日ファンやU信者の琴線を刺激する。 
 
まあ自分は現役時代は知らないのですがね、ゴッチさんの。 
 
自分の中のゴッチさんは漫画「プロレススーパースター列伝」の印象が強い。 

その中にこんな泣かせるエピソードがありました。
 
古巣日本プロレスを追われ、新日本プロレスを立ち上げたばかりの若き日のアントニオ・猪木。
 
新団体設立の初めての興行、なにか強烈な目玉が欲しい。
 
当時のビッグ・マッチと言えば、大物外国人レスラーとの対戦。

しかし、古巣日本プロレスからの圧力で、主だった大物外国人レスラーは全て押さえられており
新日本プロレスのリングには上がれない。

事務所で悩む猪木に一本の国際電話。受話器の向こうはそのヒト、カール・ゴッチ。

当時のゴッチさんは、前出のルー・テーズと並ぶ超大物外国人レスラー。海外の情報も非常に少なく 
ゴッチさんの試合が日本で見れれば正にプレミアムカードだ。

若手時代に通称「ゴッチ道場」でゴッチさんを師事した猪木。ゴッチさんからすると、弟子の
大ピンチという事態。
 
師匠からの出場OKの電話に嬉しいながらも困惑する若き猪木。何故なら、自分の新日マットに
上がったら、師匠ゴッチは日本マット界から干されてしまうからだ。自分の新団体だって、どこまで
続けられるか、全くの未知数。 

そんな猪木の気持ちを察して、師匠のゴッチは全て承知の上の事だと。更に静かにこう続ける。

「君は大物外国人レスラーを探している、と聞いていたよ・・。それとも、カール・ゴッチは
大物外国人レスラーでは無いのかな・・・?」 

カッコイイ~~~!! ゴッチさんっ!!! (試合結果は猪木師匠越えならず)
 
次はゴッチさんが現役を退き、主に猪木率いる新日本プロレスの若手に「ゴッチ道場」で
教えていた頃の話。今から25年位前、当時私は中学2年生の長州信者(笑)だった。

ヨーロッパヘビー級チャンピオン、という肩書きを引っさげて(このベルトの権威は??)
若き日の前田 日明が日本へ凱旋。

「ラウンディングニールキック」というレッグラリアートの一種と(実際はジャンピング後ろ
回し蹴りだった)「12種類のスープレックス」を全て使いこなすという触れ込み。 

ジャーマン、フルネルソン、ハーフネルソン、フロント、サイド、ダブルアーム、ハーフハッチ、
タイガー、フィッシャーマン、バーチカル(ブレーンバスター)あとなんだ?オースイ?
兎に角12種類、アキラ兄さんは体得して来たらしい。(アキラ兄さんの欧州でのリングネームは
「QKリー」QKとはクイックキックで、ブルース・リーの親戚というデンジャラスな設定だった)

そして凱旋試合。相手はもう咬ませ犬感ムンムンのポール・オンドーフ。

そのリング下には、そんなアキラの何倍もヤバそうな中年男、白いジャージのゴッチさんが!! 
 
もう若き日のアキラ兄さんより、わたしぁ怖ろしくゴツイ白髪まじりのセコンド、ゴッチさんの
シュートな雰囲気にテレビの前で正座しましたよ。


試合開始直前、自軍コーナーで、ひとこと、ふたこと、言葉を交わす、ゴッチさんと若きアキラ。 
 


「ゴッチさん、会社(新日)とテレビ局には12種類のスープレックスを今夜全て見せろ、と
言われましたが・・・」 
 

「いや、その必要は無い。アキラ、スロイダー一発で仕留めなさい」 
 
 
会社やテレビ局の言いつけ系も全てシカト系なアキラ兄さん系は、ゴッチさんの言うとおりに
スロイダー(フロントスープレックス)一発でオンドーフを轟沈させ、その後もアンドレマジ蹴り事件や
長州蹴撃事件、プロレス雑誌編集長女子トイレヤキ入れ事件等で、少年プロレスファンを
アナーキーに開眼させていったのである。 
 
カール・ゴッチとは何なのか?
 
プロレス最強伝説の最大の幻想だと思う。 

故、井上元ファイト!編集長風に言えば、「殺し」があると言う事ですよ!!ドン!

ほんとにコイツは人を殺しそうだ、(もしくは一人、二人は既に殺っていそうだ)と思わせる
迫力、存在感、哲学の持ち主だったゴッチさん。 

孫の様な西村 修より元気にコシティを振り回していたゴッチさん。(コシティとは太短い
バットで、上半身強化の為に使用される新日本お得意の木製ダンベル。ミスター高橋考案の「ピー
ターバンド」を知る者は、「ビリーバンド」など噴飯モノでもある)

猪木は勿論、坂口、藤波、前田、木戸 修、藤原組長、佐山、高田、山ちゃん、船木、西村 修
に至るまで、(特に修系にもてている)日本人プロレスラーを魅了し続けたドイツ系、カール・ゴッチ。

慎んでご冥福をお祈りします。