極稀に来店頂くお客様でAさんという方がいらっしゃいます。


初めてAさんに会ったのは理容室。それも990えんで切ってくれるトコ。(笑)
 

お店を始めたばかりの頃、どおしよお、って位お金が無く、缶ジュース買うのも悩んだ。


サラリーマン時代に4000円でカットしてもらっていたお店にはとても行けなくて、
仕方無く近所に出来た990円カットのお店に行きました。多分4ヶ月振り位のカット。 
 

「990円でカットして貰えるんだから、贅沢は言えないよね・・・」

と、申し訳無いけれど、諦めにも似た気持ちでお店に入る。
 

お店は結構混んでいて、まあ見渡すと子供とかお年寄りばかり。美容師さんは3人位
いただろうか・・・。


自分で用紙に名前を書き、順番を待っていると程なく私の名前が呼ばれた。
 

案内されるまま席に着くと、背の高いお姉さんがやってきた。 
 

色が白くて、顔が小さくて。ちょーっと独特のオーラが漂ってる感じ。
 

「どんな感じにしましょうか?」とかなんとか言ったと思うが、3年以上前なので定かではナイ。
 
ただね、鏡越しに私の顔を見て「ニカッ!」って笑った。女性で「ニコッ!」とか
「ニコニコッ!」とか笑顔のいいヒトは居るけれど、「ニカッ!」て笑うヒトは初めて見た。
 

で、こっちも「990円」なんで多くは求めてません。多分、適当に○○センチ位詰めて下さ
い、とかいったと思う。これも3年以上前なので定かではナイす。 
 

でもAさんは、美容師として、職業人として自尊心が強かった。多分、普段もプライドが
高いヒトなのだと思う。自分の内に自分だけのハードルがあって、たとえ千円だろうが
二千円だろうが自分に課したハードルは下げない気質なのだ。それは決して他者に向けられた
ものでは無く、自分自身に向けられたプライドなんだろう。
 

凄く丁寧にカットしてくれた。4000円の所より、その出来上がりに私自身は満足出来た。 


誰でもAさんの様にカットしてくれる訳では無い。その証拠に、後日、同店舗で違う美容師さん
にカットして貰うと、表情もカッタルそう、「あんた千円しか払ってないんだよ?」感がアリアリ
のサービス内容だった。でもそれが普通だと思う。きちんとしたサービスを受けたければ、
その対価を払うのが世の常なのだ。
 

次から私は990円なのにAさんを指名した。因みに指名料が200円掛かるのだが
別にかまわない。するとAさんはクソ真面目な顔をして、「別に要りません、普通に仕事してる
だけだから」と200円を私に返してくる。チラっと引き出しを見ると、美容師さんの名前が
書かれたケースがあって、百円玉が入っている。多分、指名料は給料とは別に各自美容師さんに
入るシステムなんじゃないか。少ない額だが、貰っとけばジュース代位にはなるじゃん・・・、
と思ったけど受け取っては貰えなかった。カット中の世間話では、私は自分がバーテンダーだ
とは言えなかった。自信満々なAさんの仕事振りを見ていると、何故だか後ろめたい様な複雑
な気持ちになった。Aさんが実は私のお店の目と鼻の先に住んでいて、買出し風景を目撃されて
しまい私は自分の正体を白状したのだ。 
 

「ヒトってなかなか変われないじゃないですか・・・!?」
 

他のお客さんとの会話でAさんは言った。


そうだと思う。他人は他人を変えられない。ヒトが変わる時は自身が内なる何かに
気づき、自分で自分を変えようと決意した時だけなのだ。
 

Aさん。自信満々で繊細な観察眼を持っている職人気質のお姉さん。
 


いつかAさんのお店が出来たなら、またカットして貰いたいですね~~。