【登場人物】


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 設定資料
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【おはなし】


以下の続き。


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その2
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◇ 服部たちが帰ったあと、東野の部屋で東野主人と合田番頭が向かい合って話しをしている。


合田番頭 「親方。 俺と親方との仲やないですか。


さっき、服部の野郎と何、話していたんですか。


あいつら、また何を仕掛けてきたんですか。


こないなときこそ、ご相談いただけなければ、俺はなんのためにこの旅館で番頭として働いているのやらわかりまへん。」


合田の熱意に動かされて、ようやく重い口を開く東野主人。


東野主人 「(深く頷きながら) 実はな・・・。


例の、黒岩って野郎がな。 この寂れ切っちまった鬼根川温泉郷を、もう一度県内有数の人気温泉旅館街にする為に、県議会まで動かして、大々的に宣伝したいと言っているらしいんだ。」


合田番頭 「はあ。」


東野主人 「でな。そのために、この温泉旅館街でもっとも古い歴史を誇るこの旅館を、その宣伝のための目玉として前面に押し出したいと言っているらしいんだ。」


深くため息をつく東野主人。


合田番頭 「(拍子抜けした様子で) 何や、そんなことやったんですか。なんも悪い話やないやないですか。


この温泉街全体にとっても悪い話やあらへんし、うちの旅館の宣伝にもなることやないですか。」


天を仰ぐ東野主人。


東野主人 「ところがな。そう旨い話ばかりでもないらしいんだ。」


合田番頭 「と、仰いますと。」


東野主人 「服部の話ではな。 黒岩の野郎がな。 いったい、どこで聞きつけてきたのやら、うちの娘、さやかに目をつけたらしくてな・・・。」


合田番頭 「お嬢さんを?」


東野主人 「あの野郎、 うちのさやかを、


『セクシーすぎる美人女将』


として雑誌社やスポーツ紙に売り込みたいと言ってるらしいんだ。」


しばし、あっけにとられる合田番頭。


合田番頭 「『セクシーすぎる・・・、美人、女将』・・・ですか。」


うむと頷く東野主人。



しばしの沈黙の後に、東野が懐からヒモのように細い女性用の白いビキニを取り出し、合田番頭の前に差し出す。


合田番頭 「こっ、これは。


(ヒモ同然のビキニを手に取りながら、困惑する合田番頭。)


・・・ただのヒモやないですか。」


憤りを隠せない合田番頭。 うつむく東野主人。


(ややコミカルに)自分の胸に白いビキニを当てる合田番頭。


しかし、すぐに我に帰り、東野主人に向かって捲くし立てる。


合田番頭 「まさか、こないなもん、お嬢さんに着させて、グラビア写真でも撮らせろ、言うてるんやないでしょうね。」


合田の問いかけに眼をあわせられないまま、無念そうに頷く東野主人。


合田番頭 「あいつら。 それで親方もあんなにお怒りに・・・。


親方。こんな馬鹿げた話、引き受けることありまへん。


断固として断りましょう。」


東野主人 「(しばしの間をおいて) ところがなあ、合田。そうも行かねえんだよ。


今回のPRの件。たとえ、表向きの理由にせよ、黒岩は実際に県議会にこの温泉街の復興計画を提案していて、そのための予算も下りるかどうか、ぎりぎりのところらしいんだ。


だから、もし今回の件を断ったりしたら、その予算も、他の温泉街に流れて行っちまう。


しかも、服部の野郎が、そのことをすでにこの温泉街の他の旅館主人たちに、あれこれ触れ回っているらしくてな。


おめえも知っているとおり、この温泉街はどこもかしこも青息吐息の状態だ。


それを考えたら、そう簡単に断れる話でもねえんだ。」


合田番頭 「くそ、なんちゅう汚いことを考える奴らなんや。


俺らが断れんちゅうことを分かっておいて、こんないやらしい提案を仕掛けてきやがって。」


悔しそうに、ビキニを握った握りこぶしで自分のひざをたたく合田番頭。



(しばしの間)



監督さん 「カァートッ!」


助監督さん 「リハーサル、オッケーでーす。」


監督からOKサインが出て、ふうと一息吐き、肩の力を抜く俳優ゴーダさん。急に調子が軽くなる。


ゴーダさん 「ねえ、トーノさん。さっきのシーン、おかしかったっすよね。」


トーノさん 「ん?そうか。」


ゴーダさんの問いかけにそっけないトーノさん。


ゴーダさん 「だって、そやないですか。


トーノさんが真面目な顔をして、女性のビキニを取り出してきて、俺が真面目な顔をして、『こっ、これは。・・・ただのヒモやないですか』なんて。


俺、おかしうて。噴出すの、こらえるの、必死でしたわ。」


(↑役作りのために、本番以外でも、関西弁が混じる俳優のゴーダさん。)


トーノさん 「そうかぁ。」


取り合わないトーノさん。


仕方がないので、監督に話しかけるゴーダさん。


ゴーダ 「ねえ、監督。さっきのシーン、おかしかったですよね。」


監督さん 「うん、ゴーダちゃん。さっきの演技、よかったよ。


あのシーンは実はギャグのシーンだからね。


リハーサルの前にも説明しといたけどさあ、ふざけて演技してもらうと台無しになってしまうんだよね。


それにしても、さっきの演技。 俺の中では、ぴったし カン・カン。


やっぱ、あのシーンは、トーノさんやゴーダちゃんのような、『実力派』でないと勤まらないよね。


本番もあの調子で頼むよ。」


ゴーダさん 「分かってます。この調子でやりますよ。」


監督に『実力派』と褒められ、舞い上がるゴーダさん。




(しばらくの休憩ののち。)


監督さん 「そろそろ本番、行ってみようか。」


助監督さん 「本番、始まりまーす。」



監督さん 「よーい、スタァーッ!」


”カチン!” (←カチンコの音)



(本番の撮影が始まる。)


合田番頭 「親方。 俺と親方との仲やないですか。


さっき、服部の野郎と何の話がしていたんですか。


あいつら、また何を仕掛けてきたんですか。


こないなときこそ、ご相談いただけなければ、俺はなんのためにこの旅館で番頭として働いているのやらわかりまへん。」


合田の熱意に動かされて、ようやく重い口を開く東野主人。


東野主人 「(深く頷きながら) 実はな・・・。


例の、黒岩って野郎がな。 この寂れ切っちまった鬼根川温泉郷を、もう一度県内有数の人気温泉旅館街にする為に、県議会まで動かして、大々的に宣伝したいと言っているらしいんだ。」


合田番頭 「はあ。」


東野主人 「でな。そのために、この温泉旅館街でもっとも古い歴史を誇るこの旅館を、その宣伝のための目玉として前面に押し出したいと言っているらしいんだ。」


深くため息をつく東野主人。


合田番頭 「(拍子抜けした様子で) 何や、そんなことやったんですか。なんも悪い話やないやないですか。


この温泉街全体にとっても悪い話やあらへんし、うちの旅館の宣伝にもなることやないですか。」


天を仰ぐ東野主人。


東野主人 「ところがな。そう旨い話ばかりでもないらしいんだ。」


合田番頭 「と、仰いますと。」


東野主人 「服部の話ではな。 黒岩の野郎がな。 いったい、どこで聞きつけてきたのやら、うちの娘、さやかに目をつけたらしくてな・・・。」


合田番頭 「お嬢さんを?」


東野主人 「あの野郎、 うちのさやかを、


『セクシーすぎる美人女将』


として雑誌社やスポーツ紙に売り込みたいと言ってるらしいんだ。」


しばし、あっけにとられる合田番頭。


合田番頭 「『セクシーすぎる・・・、美人、女将』・・・ですか。」


うむと頷く東野主人。



しばしの沈黙の後に、ベテラン俳優 トーノさんが、懐からただのヒモを取り出し、ゴーダさんの前に差し出す。


合田番頭 「こっ、これは。


(↑異変に気がついた俳優ゴーダさん。 ゴーダさんの頭の上にたくさんハテナマークが浮かんでいる。


しかし、ヒモ同然のビキニを手に取りながら、真面目に演技を続けるゴーダさん。)


・・・ただのヒモやないですか。」


(↑ホントにただのヒモです。(^ω^) )


憤りを隠せない合田番頭。 うつむく東野主人。


(ややコミカルに)自分の胸にただのヒモを当てるゴーダさん。


しかし、すぐに我に帰り、トーノさんに向かって捲くし立てる。


合田番頭 「まさか、こないなもん、お嬢さんに着させて、グラビア写真でも撮らせろ、言うてるんやないでしょうね。」


合田の問いかけに眼をあわせられないまま、無念そうに頷く東野主人。


合田番頭 「あいつら。 それで親方もあんなにお怒りに・・・。


親方。こんな馬鹿げた話、引き受けることありまへん。


断固として断りましょう。」


東野主人 「(しばしの間をおいて) ところがなあ、合田。そうも行かねえんだよ。


今回のPRの件。たとえ、表向きの理由にせよ、黒岩は実際に県議会にこの温泉街の復興計画を提案していて、そのための予算も下りるかどうか、ぎりぎりのところらしいんだ。


だから、もし今回の件を断ったりしたら、その予算も、他の温泉街に流れて行っちまう。


しかも、服部の野郎が、そのことをすでにこの温泉街の他の旅館主人たちに、あれこれ触れ回っているらしくてな。


おめえも知っているとおり、この温泉街はどこもかしこも青息吐息の状態だ。


それを考えたら、そう簡単に断れる話でもねえんだ。」


合田番頭 「くそ、なんちゅう汚いことを考える奴らなんや。


俺らが断れんちゅうことを分かっておいて、こんないやらしい提案を仕掛けてきやがって。」


悔しそうに、ただのヒモを握った握りこぶしで自分のひざをたたくゴーダさん。



(しばしの間)



監督さん 「カァートッ!」


助監督さん 「本番、オッケーでーす。」


監督からOKサインが出て、その場にぐったりと倒れこむ俳優ゴーダさん。


まわりで、スタッフが粛々と撤収を始める。


スタッフが半纏を持ってきて、ベテラン俳優 トーノさんの肩にかける。


スタッフ 「トーノさん、お疲れ様でした。」


トーノさん 「おう、お疲れ。」


粛々と撤収を続けるスタッフ。


ようやくむっくりと起き上がる、実力派俳優のゴーダさん。


ゴーダさん 「(監督に向かって) さっきのアレ、なんやったんですか。」


監督さん 「何って? ゴーダちゃん、いい演技してたよ。」


ゴーダさん 「いや、いい演技とかやなくて。


さっきのあれ。トーノさんが差し出してきたやつ。


ほんまにただの”ヒモ”やったやないですか。」


監督さん 「ヒモ?何のヒモ?


(引き上げようとするトーノさんを呼び止めながら) トーノさん、ヒモって何の話ですか。」


トーノさん 「さあ、おらぁ知らねえよ。」


ふたたび、その場にぐったりと倒れこむ俳優ゴーダさん。


開き直る監督さん 「大丈夫だよ、ゴーダちゃん。


さっき、リハーサルのときの演技も、ちゃんとフィルムに収めといたから。


あとで、CGを使って、サクサクーッと繋いどくから。


おかげでゴーダちゃんの意外な展開に困惑する、びみょーな、いいー表情が撮れたよ。」


ゴーダさん 「いや、CGがどうのこうのっちゅう話やなくてですね。」



ようやく、ゴーダさんが、三者の様子を見知らぬスタッフが遠くからハンディカメラで撮影しているのに気がつく。


ゴーダさん 「監督。今頃気がついたんですけど、アレ、何ですか。」


監督さん 「いやあねえ、毎年、年末にNG大賞ってあるじゃない。


あれでさあ、この番組も取り上げてもらえることになったんだよね。でも、そしたらさあ、なんか、ネタはないかって、うるさくてさあ。


ほら、うちは実力派ぞろいじゃない。なかなか、天然ボケの、いいNGが出なくてさ。」


みたび、その場にぐったりと倒れこむ実力派俳優のゴーダさん。


画面の右下の四角の中で大受けするNG大賞審査員のスザンヌ。



スタジオに戻ってきて、司会者からゴーダ本人へのインタビューが行われる。


それから、司会者の「では、本番の映像を見てみましょう」の声とともに、監督の手腕で見事に繋がれた放送用の映像が流される。


放送用の映像の中で、ゴーダさんが微妙な表情を浮かべている。


ゴーダさんがヒモのようなビキニを手に取っている。


画面下には『実はホントにただのヒモです』というテロップが出ている。


画面の右下の四角の中で大受けするNG大賞審査員のAKB48の主要メンバー。


最後に監督のコメントビデオが流され、ゴーダちゃんの実直な人柄について語られる。


NG大賞審査員らがウケて、ゲストのゴーダさんがしきりに後ろ頭をかく。


人気俳優として認められた上に、美しい女性タレントたちに囲まれて、まんざらでもなさそうなゴーダさん。




◇ 合田番頭が鼻の下を伸ばして居眠りしている。


合田番頭 「むにゃむにゃ。」


東野主人 「おい、こら、起きろ、合田。何、居眠りしてやがるんだ。」


合田番頭 「はっ、はい。」


夢から覚めてキョロキョロする合田番頭。


東野主人 「鼻の下伸ばして、何、夢、見てやがるんだ。


てめえの馬鹿さ加減にゃ、俺りゃなさけなくて、涙が出てくらあ。


ともかく、撮影の件、さやかにちっと伝えてくれや。


実の父親である俺からじゃあ、言いにくいからよう。


いいかあ。ここがなあ、伸るか反るかの瀬戸際なんだ。


この話を受ければなあ、けっこうな宣伝にもなるし、馬鹿にならねえ宣伝費用がうちの旅館に入ってくることになるんだ。


やっぱりこんなおいしい話を逃す手はねえ。


何が何でもあいつを説得するんだ。」


(↑自分の娘を売ることにした、わりと現実的な東野主人。)


合田番頭 「ヘイ。」



なお、監督さんの「カァートッ!」以下は本編と関係ないので、カットしてください。(^ω^) 



(以下に続く)


【原作】裸足の大将 放浪日記 第1話 その4
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