世の中には、幸福になりたくてもなれないという人たちがいる。
そうかと思えば、絶対に幸福を掴んでやると意気込んでいる人たちもいる。
人間は幸福になれないものなのだろうか。
幸福は掴み取ったりするようなものなのだろうか。
私は、どちらも違うと思う。
結論から言えば、幸福でない人間はいないし、幸福を掴み取った人間もいない。
上の2者について考えてみるとき、両者には共通した間違いがある。
彼らはどちらも幸福と幸運を取り違えている。
幸福と幸運は別物である。
幸福になれないといって嘆く人や、いつか必ず幸福を掴んでやると言っている人は、そもそも幸福の定義を間違えている。
これから、以下の四つのことについて考えてみよう。
1.幸福とはなんだろうか。
2.幸運とはなんだろうか。
3.幸福と幸運の違いはなんだろうか。
4.両者のうち、人間にとって本当に大切なのはどちらだろうか。
以下、それについて述べる。
幸運と幸福の関係は、何と何の関係に似ているだろうか。
私は、幸運と幸福の関係は、金と水の関係に似ていると思う。
人間の中には、金銀財宝を求める人がたくさんいるが、人間にとって本当に必要なのは水である。
人間の中には、幸運を求める人がたくさんいるが、人間にとって本当に必要なのは幸福である。
例えば、こう考えてみよう。
もしある奇特な人がいて、あなたに「金1kgか水1リットルのどちらか好きなほうをやろう」と言ったとしよう。
そのとき、あなたはどちらを取るだろうか。
誰でも金を取るのではないだろうか。
何故なら、金を1kgをもらい、それを換金すれば、水はいくらでも買うことが出来るからだ。
あるいは、水道の水でよければ、水など、いくらでもただ同然で得られるのだから。
逆に、水1リットルを得て、それを換金したところで、金は1グラムも買うことができない。
そういう意味では、金の方が水よりも価値があるように思える。
例えば、プレゼントに金の装飾品を贈る人はいても、水を贈る人はいない。
しかし、金と水を比べたときに、人間にとって本当に価値があるのはどちらだろうか。
実は、水ではないだろうか。
何故なら、人間は金がなくても死なないが、水がなければ死んでしまうからだ。
例えば、こう考えてみよう。
ある人が砂漠で遭難したとしよう。
そして、のどが渇いて、今にも死にそうになっているとしよう。
そのとき、やはり、ある人が現れて、「金1kgか水1リットルのどちらか好きなほうをやろう」と言ったら、あなたはどちらを取るだろうか。
誰でも水を取りはしないだろうか。
そう考えてみると、金の方が水よりも価値が高いというのは、金の方が換金率が高いという、単なる経済的な話であって、それ以上のものではないことが分かる。
幸運と幸福の関係もそれに似ている。
世の中には、やたらと幸運を掴みたがる人がいる。
なるべく働かなくてもいいように、なるべく楽が出来るように、なるべくいい思いが出来るようなことを探している。
そのために、例えば、親の財産だとか、美しい容姿だとか、宝くじの当選だとか、そういったものが、たいした努力もしないで手に入らないだろうかと思案をめぐらせている。
そもそも、私たちの心の中には、他人の幸運をうらやましく思ったり、自分も幸運を掴みたいと思ったりする気持ちがある。
それは何故だろうか。
それは、幸運の換金率が極めて高いからだ。
しかし、それは滅多に手に入るものではない。
また、それは自力で必ず手に入れられるものではない。
最高の幸運を手に入れようとして、自分の全人生を賭けるのは、3億円の宝くじを当てるのに、自分の全人生を賭けるようなものだ。
自分の全人生を賭けたところで、3億円の宝くじは当たるのだろうか。
上のようなことを考えてみると、幸運の特徴は以下のように言える。
1.幸運は、非常に経済的な価値が高い。
3億円の宝くじが当たったら、個人にとっては大変な経済的な効果がある。
2.幸運が手に入るかどうかは、確率的なものであって、自力で手に入れられるものではない。
力ずくで3億円の宝くじを当てることはまず出来ない。
なお、3億円の宝くじを自力で手に入れる方法は、以下の2種類である。
Ⅰ.すべての宝くじを買い占める。
Ⅱ.3億円の宝くじが当選した人から、3億円以上のお金で買い取る。
いずれにしても現実的ではなく、儲けはない。
3.幸運がなくても、人間の生活に支障はない。
3億円の宝くじが当たるのは大いにけっこうだが、別に当たらなくても生活に支障はない。
4.一般に、ある人が幸運を掴み取るということは、それ以外の人たちが不運を掴み損ねるということである。
あなたが3億円の宝くじを当てるためには、他の人たちが買った宝くじが外れなければならない。
あなたが、「私に3億円の宝くじが当たりますように」と祈るということは、「私以外の人たちが全員外れますように」と祈っているのと同じことだ。
結局、自分の幸運を祈るということは、それが他者の不幸と繋がっている場合、他人の不運を祈るということだ。
だから、自分の幸運を祈るというのは、利己的な行為になり得ることを忘れてはいけない。
では、幸福というのはどういうものなのだろうか。
それは、今述べた幸運の特徴の反対である。
すなわち、以下の通りである。
1.幸福は、非常に経済的な価値が低い。
それは水や空気のようにほとんど1文にもならない。
2.幸福が手に入るかどうかは、確率的なものではなく、だれでもそれを手に入れることが出来る。
それは誰でも手に入れることが出来るというよりも、誰でも最初から手にしているものである。
3.幸福がなければ、人間の生活は成り立たない。
ある人が精神的な生活を送っているということは、すでにその人が幸福を得ている証拠である。
4.ある人が幸福を掴んだところで、それ以外の人たちが不幸になるということはない。
幸福は幸運と違って、排他的なものではない。
誰かが呼吸をしたからと言って、ほかの人が呼吸できなくなるというものではない。
実のところ、幸福というのは、極めて希薄なものだ。
それは、日々、あちこちに満ち溢れており、誰でも手にすることが出来るのだけれども、私たちそれをなかなか実感することが出来ない。
ゲーテは言った。
「世に”幸福はある”が、私たちはそれを知らない。
知っていても重んじない。」(ゲーテ)
結局のところ、幸福とは何ぞや。
それは、人間の精神を成り立たせている根本要素だ。
いや、むしろ、そういうものを幸福と呼ぶのだ。
今、ここに一人の人間がいて、精神的な生活を送っているのなら、その人はすでに幸福な人である。
何故なら、その人の精神は幸福から成り立っているからだ。
幸福がなかったら、実は私たちは生きていくことが出来ない。
世の中には幸福になれないといって嘆く人がいるけれども、それは幸福に気が付いていないか、軽んじているだけのことだ。
そういう人でも、知らないうちに、その人なりの幸福を摂取して生きている。
私たち自身が、普段、何気なく水を飲むことで、生きられているように。
そういう意味で言えば、幸福というのは、水どころか、空気に近いものなのかもしれない。
私たちは空気がなかったら、ものの数分もしないうちに窒息死してしまうのだから。
人間は、心の中に幸福がなかったら、ものの数分もしないうちに気が狂ってしまうだろう。
空気のように薄く、空気のように不可欠なもの、それが幸福だ。
幸福の換金性が低いのは、言い換えるならば、幸福には金では買えない価値があるということだ。
英語の"priceless"という単語を思い出してみるといい。
"priceless"とは、「値段」("price")が「ない」("less")ということだ。
値段がないのは、「1文の値打ちもない」ということではなくて、「お金では買えない、値段を付けることが出来ない」という意味だ。
幸運に値段を付けることは出来るが、幸福に値段を付けることは出来ない。
3億円の宝くじが当たるという幸運は、言い換えれば、3億円で買える程度の価値しかない。
しかし、日々の幸福は3億円では買えない。
私はここではっきりと言っておきたい。
人間にとって、幸運はなくてもかまわない。
そんなものはなくても、私たちの精神は死なない。
しかし、幸福がなかったら、それは成り立つことが出来ず、死んでしまう。
だから、私たちは求めるものを、間違えてはいけない。
荒野で、水を飲むのも忘れて、無我夢中になって金を掘り続けていたら、そのうち、脱水症状を起こして死んでしまう。
ヨハネは水によって洗礼を授けた。
だから、あなたも、金を求めるより、水を求めなさい。良質の水を。
さらに、イエスは水ではなく、聖霊(the Holy Spirit)によって洗礼を授けた。
だから、あなたも、水を求めるより、聖霊を求めなさい。良質の聖霊を。
求めるものを間違えて、心が窒息しないように気をつけなさい。
幸福とは、聖霊(the Holy Spirit)の別名である。
上は、以下の記事を書き直したものである。
【思索】幸運は金、幸福は水
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2007-08-05 19:07:54
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