以下の続き


【映画評論】ヒョンジェ その1
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(お断り:以下の記事はDVDなどを見ながら書いている訳ではないので、細かいところで実際の内容と違っているところや、シーンが前後しているところがあるかもしれません。気になる方は映画を観て確認してください。)


バンドで歌っていた加納純らは、ある日、朝高の学生たちに襲撃されます。その後、橋の下(?)で灯油缶などで作った自家製のドラムを叩く一人の青年に出会います。それがキム・ヨンチョル(ハ・ヨンジュン)です。この時点で純はヨンチョルが在日であることを知りません。


その後、再び、彼らは朝高の学生たちに襲撃され、逃げた先で朝高側にいたヨンチョルと出会います。そして、純は、朝高の学生たちに受けた怪我を理由にしてバンドを降りたドラマーの代わりに、ヨンチョルをバンドにスカウトします。しかし、ヨンチョルには、本物のドラムがありません。そのため、彼らはドラムを買うためのお金を作ることにします。


ところで、この映画では、朝高の学生が日本人学生を襲うシーンが多く描かれていますが、私自身は、朝高と日本のバンカラな高校の間で、しばしば抗争が繰り返されていたという話を何度か聞いたことがあります。小さい日本人の兄弟が朝高の学生らに取り囲まれて怖い思いをしたとか、逆にチマチョゴリを着た朝鮮学校の女の子がチマチョゴリを切り裂かれたとか、双方のいろいろな経験談を間接的にではありますが、聞いたことがあります。


当時、何故、学生たちの間でそういった争いが繰り広げられていたのかを考えてみると、いろいろな要因があったのだろうと思います。特に、以下の理由が大きいのではないでしょうか。


1.日韓の民族問題
2.冷戦構造(資本主義と共産主義、右翼と左翼の対立、’60年代の学生運動の名残)
3.学生同士の対立(当時、リーゼントのツッパリ、不良が流行っていたことも考慮する)
4.都心部の人口密度(満員電車でのトラブルを想像すれば分かるように、人口が過密になると争いごとは連鎖的に生じやすくなるものです)


私も同時代に生きていましたが、この映画の主人公たちと同世代ではありません。また、田舎でのんびりと暮らしていたこともあって、当時の彼らの世代の感情は、日本人であれ、在日であれ、なかなか理解しにくいところがあります。しかし、想像してみるに、当の本人たちは上のような原因を明確に区別して争っていたわけではないのではないかと思います。ただただ血の気の多い若者が、政治問題や民族問題やいろいろな問題に関わるうちに、何らかの暴力事件に巻き込まれ、いつの間にかお互いにその連鎖が止まらなくなったというケースが多かったのではないでしょうか。

少なくとも、こういった個人的、日常的な争いにおいては、日本人が悪い、在日が悪い、どのイデオロギーが悪いというような話ではないように思います。


さて、話は変わって、同じ’79年、ある銀行で人質事件が発生します。銀行にはシャッターが降りており、中をうかがい知ることが出来ません。銀行の周りを、11年前の川崎シージャック事件のように、警察の特殊部隊が取り巻いています。その後、強行突入が行われ、事件が解決します。


その際に、全員でいっせいに射撃をすることによって、狙撃手の誰が撃ったか分からないようにすると言う配慮が為されます。これは11年前の川崎シージャック事件において、ある狙撃手が犯人を射殺して、批判を浴びたことに対する反省によるものでした。


この劇中の人質事件も、同年の以下の実在の人質事件をモデルにしているものと思われます。


三菱銀行人質事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%8F%B1%E9%8A%80%E8%A1%8C%E4%BA%BA%E8%B3%AA%E4%BA%8B%E4%BB%B6


それぞれの事件の解説にも書いてあるように、先述の「ひとりの狙撃手が個人的に社会的な非難を浴びないようにする」という点なども、この実在の二つの事件(瀬戸内シージャック事件、三菱銀行人質事件)の因果関係を参考にしているようです。


ところで、個人的な話ですが、私もこの実在の事件である「三菱銀行人質事件」はなんとなく覚えています。当時はやたらと銀行強盗が現れました。成功率はきわめて低いのにも関わらず、次々と事件が発生しました。おそらくは3億円強盗事件が迷宮入りしていることで、自分も上手くやれば、何とかなるんじゃないかと考えていた人が少なからずいたのかもしれません。また、私自身、物心ついた頃からこういう事件が多かったので、世の中では銀行強盗が昔からずっとあり、これからもあり続けるものなのかと思っていました。しかし、今考えてみると、あの時代独特の現象のような気がします。


三億円事件
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E5%84%84%E5%86%86%E4%BA%8B%E4%BB%B6


ところで、劇中の事件において、野次馬に混じって、一人の男の姿が目撃されます。


それが、川崎シージャック事件において、犯人を射殺し、社会的な非難を浴びた加納靖史でした。現場において、彼の姿に気がついた女性記者、沢嶋美希(坂上香織)はその姿をカメラマンに撮影させます。そして、後日、彼を訪ね、11年前の事件の真相を尋ねます。しかし、彼は黙して語りません。


以下、続く。


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