昔から思うのだけれども、好きな人に好きと言うのはいけないことなんだろうか。


というのも、世間では、「好き」とか「愛している」というのは、イコール「だから君も僕を愛してくれ」、「俺と付き合ってくれ」という意味になるらしく、言ったからにはそれなりの責任を持たなければならないらしいから。


特に、その人に恋人がいたらなおさらのこと。

何故ならば、ある人がその人に「僕は君が好きだ」ということは「君も僕を好きになってくれ」と言うことになり、「恋人と別れてくれ」と言うことになるから。


正直に告白するならば、僕はこの感覚が理解できない。

何故ならば、僕は「告白」と「求愛」は別の話だと思うから。


学生時代、僕にはとても好きな人がいた。とても美しい人で、明るくやさしい人だった。僕はその人の笑った顔がいまだに忘れられない。

しかし、あるとき、僕がその人に「君が好きだ」と言ったら、その人はとても顔を曇らせた。


その後、僕は、卒業するまで、ずっとその人の横顔を見て過ごした。目が合うたびに、その人が俯いて通り過ぎるので、僕はとても悲しかった。あのやさしい笑顔はどこへ行ってしまったのか。


しかし、このことについては、僕自身、反省する点がないではない。大体において、学生時代の僕は小汚すぎた。おしゃれをすることを知らなかった。冬でもビーチサンダルを履き、膝の剥げたコーデュロイのズボンをずっと履いていた。訳のわからない野望に燃えていた。同級生の男たちからは「俺の古着を分けてやろう」と何度か言われた。

年頃の女性から見れば、愛がどうとか言う以前の問題だろう。


そういった経験があって、僕は好きな人が出来ても、なかなか好きと言えない。僕自身の考えでは、言ってしまっても、何の問題もないと思うのだけれども、相手の考えは必ずしもそうではないみたいだから、我慢する。



それでも、僕は「告白」と「求愛」は別だと信じたい。

好きな人には単に好きだと言いたい。

美しい人であるのならば、その美しさを称えたい。

見返りは求めませんから、せめて、その麗しい顔を背けないでください。

あなたのお顔が見たいのですから。


(別のブログからの再録)