金峯山寺で蔵王権現様御開帳が始まった吉野。
紅葉シーズンに向けて、春に次ぐ活況を見せ始めています。
そんな折に、昨日から菊まつりも始まったという報を受けて、勢いで書き連ねました。


「しず、今日学校終わったら如意輪寺の菊まつり行かない?」
「ん?そっか、今日からだっけ。良いよ、行こう!じゃあ玄さんたちも……」
「え~っとね、玄や宥姉たちは旅館が今忙しくなってるからすぐ帰ってお手伝いするみたい。で、灼も今日は部長会で遅くなりそうなんだって」
「菊まつりは16時までだったっけか。じゃ、二人で行こっか」

放課後。
「わぁ、今年もすごいなあ!」
「去年より本数も増えたのかね?色とりどりで綺麗だね~」
「ところで、菊まつりって去年から始まったけど、何で菊なのかな?」
「如意輪寺はね、うちと同じで後醍醐天皇ゆかりのお寺でしょ。それで後醍醐天皇の忠臣だった楠木正成公の家紋である菊水が寺紋になってるの」
「へぇ~」
「あんたも地元民なんだからこれくらいは覚えときなさいよ」
って、全部おねえちゃんが言ってたことなんだけど。
「憧は凄いなあ!」
「そ、それほどでもないわよ」
「まだ紅葉はもう少し先だけど、観光客も結構多いね」
「蔵王権現様のご開帳も始まったし、後醍醐天皇御霊殿や秘宝の特別公開も行われてるからね。今日はフリーマーケットなんかもやってるみたいだよ」
「あ、本当だ!ちょっと覗いてみよう!」
「こ~ら、すぐ走るな!」
「うーん、新しいジャージが欲しいんだけどなかなかないなぁ」
「あんたはこんな所でもジャージかい」
「あ、あれ!」
「もう、少しは落ち着きなさいよ!」
「憧ー憧ー、これ可愛くない?」
「んん?うさぎの根付?」
「すみません、これください!で、憧にあげる!」
「あ、ありがと……」
「憧、かわいい動物好きでしょ?」
「うん……」
そんな風に無防備に笑うあんたが一番かわいいのよ、……って言えたらどんなに楽かな。
「鞄とかに付けてよ」
「ん~……鞄に付けてたらどっかに落としちゃいそうだし、家に持っとく」
「そう?」
これ無くしちゃったら、絶対嫌だもん。
「……ねぇ、しずはどの色の菊が好き?」
「え?そうだなぁ。やっぱり王道で黄色かな!」
「黄色、か」
昔、これもおねえちゃんに教えてもらったこと。黄色い菊の花言葉は、「破れた恋」。しずはその色を選ぶか……。でもね、それでもあたしは……。
「でも」
「?」
「ここで初めて見たけど、赤いのも好きだな~!」
「…………!」
何で、何でしずはいつも……。
「じゃあ、お返しにこれ買ってあげるわ」
「赤い菊のしおり?ありがとう、憧!」
「あんたもたまにはそれで本でも読みなさいよね」
「本は苦手なんだけど、こういうの貰うとちょっと読んでみようかなって気になるよね」
「じゃあ今度は図書館でも行こっか」
「大淀の?何年行ってないかなー」

在りし日の、おねえちゃんとの会話を思い出す。
「憧、菊の花言葉って知ってる?」
「知らなーい」
「『高潔』。うんうん、まさに高潔な巫女の私にぴったりだ」
「おねえちゃん、多分本当に高潔な巫女は自分でそんなこと言わない」
「なによぅ。でね、もう一つ『あなたはとても素晴らしい友達』っていうのもあるの」
「へぇ~」
「更にね、菊は色によっても花言葉がそれぞれ違うんだ」
「そうなの?」
「うん。黄色い菊は『破れた恋』。白い菊は『真実』。赤い菊は……」
今思えば、それを語っていた時のおねえちゃんも誰かの顔を思い浮かべていたのかもしれない。私もよく知っている、あの人の顔を。一番近い存在を想いながら、破れてしまった、それでも消えない想いを滲ませて。叶わないものを望み、届かないものに憧れる私たち姉妹は似ているのかもしれない。

「赤い菊は『あなたを愛しています』」