マージナル・オペレーション 01
芝村裕吏

一歩一歩這い上がる様に、いい結果を奪いとってやる。


あらすじ

30歳のニート、アラタが選んだ新しい仕事(オペレーション)、それは民間軍事会社──つまり、傭兵だった。住み慣れたTOKYOを遠く離れた中央アジアの地で、秘められていた軍事的才能を開花させていくアラタ。しかし、点数稼ぎを優先させた判断で、ひとつの村を滅ぼしてしまう。
モニターの向こう側で生身の人間が血を流す本物の戦場で、傷を乗り越えたアラタが下した決断とは──?



星海社さんの最前線で試し読みが可能 なようです。

「ガンパレード・マーチ」の芝村裕吏さんが、初めて書き下ろした長編小説。

星海社というレーベルだけでも心躍るのに、私の人生の中でも多大な影響を与えられた芝村さん書き下ろしの御本とあっては読まずにはいられません。


アルファシステムという会社とその作品は、非常に特異な存在でした。

ゲーム自体も恐ろしく濃密な設定と独特なシステムで稀有な魅力を持っています。

「ガンパレード・マーチ」という作品の構造的美しさは今もってゲーム史上でも最高傑作だと思っています。

取り分け素晴らしいのが、ゲームがゲーム内での楽しみを超え実世界での能力の涵養を促す役割すら与えられていた事です。

そのアルファの入社試験として例示されていたのが、

「らせんを使って新しい玩具を創れ」

「マチュ・ピチュで100人の小学生を遊ばせる方法は?」

「今の日本の首相が超絶ダメ人間です。日本を救いなさい」

といったような感じの問題。


そういった、世界から与えられる有形無形の難題に対する対応力を身に付けるために、自らに哲学というソフトをインストールしなさい、といった事が当時のHPで語られておりました。

それ以前からも興味はあった哲学を学ぼうと決心するに至る大きな動機付けの一つが、アルファシステムであり芝村裕吏さんでした。

そんな芝村さんが書かれる小説。

期待しない訳がありません。


内容は芝村さんお得意の軍事モノ。

そこにニートでオタクの主人公という現代的なキャラクター設定を絡めて、ライトノベル然とした作りの中で面白さが存分に演出されています。

それは、軍隊生活という非日常体験であったり、主人公が意外な才能を発揮し評価される面白さであったり、或いは軍略その物など。

加えて、芝村さんらしい苦味が去来するシーンの妙味。

巧いなあ、と感じながら胸が焼け付く想いでした。

物語を繙き続ける理由の一つは正にこういった感情に見舞われる為でもあるので、その醍醐味を満喫できた感じです。


その心は闇を払う銀の剣
絶望と悲しみの海から生まれでて
戦友達の作った血の池で
涙で編んだ鎖を引き
悲しみで鍛えられた軍刀を振るう
どこかの誰かの未来のために
血に希望を 天に夢を取り戻そう
われらは そう 戦うために生まれてきた


という、ガンパレード・マーチの歌を思い出しながら読了。


期待は十分に満たされたというのが率直な感想です。


その上で難点というか欲を言えば。

1つには、もっとキャラクター各々の個性が強い方が良かったという事。

物語上の役割を演じる以上の個性を発揮しても良かったんじゃないかな、というキャラがチラホラと。

それこそ、本文にあった「すぐに無くなる人物関係に余計な投資はしない」といった所かもしれませんが。

そして、掛け合い自体は面白い物も多くあったのですが、もっともっと刺さる表現や台詞が欲しかった、という事。

芝村さんという事で、自動的にガンパレード・マーチの名言集と遜色無いクラスの物を期待してしまうので。


GoogleマップやTwitterといった言葉が普通に登場するのも現代的で面白いですね。

キャンプ内ではAmazonからの荷物も受け取れます、等の件も。


そもそも、この作品自体がiPadで執筆された物だそうです。

ご自身でTwitterでそんな事を呟いていた気もしますが、全編iPadとは驚きです……。


「マージナル」というと萩尾望都先生の漫画を想起しますが、マージナルと名の付く作品に外れはないのかも?とライトノベルの「マージナル」も読まずに勝手に夢想。


軍事物が嫌いでなければ楽しめる作品でしょう。



75点。