あの日の居酒屋が始まりだった。

 
Tからすれば、ほんのちょっと悪戯心で声をかけてみた。そんな感じだったと思う。
 
けれど当時の僕にはそんな冗談が通じるはずもなく、Tにのめり込んでいった。
 
当然、外で手を繋いで歩くことなどできるはずもない。こちらから電話することもできない。ただ待つ事しかできない、そんな不自由もさして問題ではなかった。
 
Tからはたくさんのものを与えて貰った。
 
何もかもが初めての自分を優しく導いてくれた。
 
喜びに満ちた日々を過ごしていたある日
 
Tは姿を消した。