Tと僕⑤あの日の居酒屋が始まりだった。 Tからすれば、ほんのちょっと悪戯心で声をかけてみた。そんな感じだったと思う。 けれど当時の僕にはそんな冗談が通じるはずもなく、Tにのめり込んでいった。 当然、外で手を繋いで歩くことなどできるはずもない。こちらから電話することもできない。ただ待つ事しかできない、そんな不自由もさして問題ではなかった。 Tからはたくさんのものを与えて貰った。 何もかもが初めての自分を優しく導いてくれた。 喜びに満ちた日々を過ごしていたある日 Tは姿を消した。