しあわせ の かたち
 
 
 
 あるひ なにするでもなく 公園のベンチで空を眺めていると
 
 いつのまにやら わたしの傍らに 老いた猫がいて
 わたしと おなじように空を眺めている 
 
 やわらかな空気を感じて わたしは 気づかぬふりを
 
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 しずかな時間 やがて わたしの耳に
 聴き慣れぬ 小さな声・・・・・・・・
 
 もしよかったら しあわせの かたちについて 教えてもらえまいか
 猫のほかに 気配を感じていなかった わたしは 
 ハッとして あたりを見回すが 猫のほかには 人影もなく
 まさかと 思いながら 猫を見ると
 猫は ちいさく口を開き
 
   「しあわせ の かたち について教えてもらえまいか?」
 
 わたしの顔を 見ることもなく 空を眺め そう言った
 わたしは しばらく 考えたあと
 空を眺めながら 独り言のように 呟いた
 
   「しあわせって かたち なのでしょうか!?」
   「わたしにとっての しあわせ は 
    たとえば 誰かのささやかな 笑顔だったり
    たとえば 昨日まで蕾だった 花が咲いたのを見たり
    心の中に やわらかな 空気がながれることだと思います」
 
   「たとえ わたしが辛くとも 誰かのしあわせを感じて
    あたたかな 風がわたしの心に吹くとき 
    わたしは それを しあわせと呼びます」
 
   「なにがあるからでも なにがないからでもない・・・・・」
   「しあわせを感じる瞬間 それがわたしにとっての・・・・・・」
 
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 しばらくの沈黙の のち 猫はホッとしたように 話しはじめた
 
   「あなたは わたしの ご主人と 同じようなことを・・・・・」
 
 ふっと ため息つく間があいて
 
   「わたしにとっての しあわせは ご主人の膝の上でした」
   「来る日も 来る日も それが さも当たり前のように・・・・・
    しかし ある日を境に ご主人の姿が消え
    その理由を 理解するまで わたしは悲しみに暮れていました
    そして ご主人の死を 受け入れたとき
    ほんとうの しあわせが なんだったのか理解したのです」
 
   「いまの わたしのしあわせは 以前と同じように
    ご主人の そばで ご主人を感じながら くつろぐこと・・・・」
   「もちろん 膝の上ではありません その土の下に ご主人を
    感じて・・・・・・・・・・」
 
   「いつか わたしも ご主人のそばに ゆける日が来る
    それまでは そこがわたしの しあわせの場所・・・・・・」
   「たとえ 雨が降っていようと そこにいると 安心できて・・・」
 
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   「そして想うんです ご主人が よくわたしを撫でながら 
  
     『これが しあわせというものだよ』
    
    そう口にしていた意味が
    あまりに あたりまえすぎて 気づかずにいたことに
    どんな御馳走でも どんな褒め言葉でもない 
    ただ その人がいるという それだけのこと・・・・・・・・」
 
   「ひさしぶりに 散歩にでたくて そこであなたを見かけて
    そして 話しかけてみたくなって・・・・・・・・」
   「これもまた しあわせの かたちなのでしょう」
 
 横目で垣間見た 猫の横顔が 微笑んだように見えた
 視線を 空に戻し
 
   『しあわせ』
 
 ああ わたしも 忘れていたのかもしれない
 だから・・・・・・・・・・・・
 横を見ると 猫の姿はどこにもなく ただ暖かなぬくもりだけが・・・・・・
 
  「しあわせ の かたち」
 
 ああ これもまた・・・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
  Photo 2012.01.03 鋸南町
       2009.08.29 猫だParkにて