その店を出る時、丁度、勤務を終わったようで、私服に着替えていた女性から「送ろうか」と、声をかけられた。

 そんな言葉をかけられても、人様の好意に対して直ぐに甘えるのは、礼儀にも反するし人間性を観られるようで、直ぐにお願いしますとは言えなかった。

「いや、すぐそこだからいいよ」と、答えたのは、至極当然だ。

 間違いなく、歩いても数分しかかからない所だし、買い物も一つだけで荷物にもならない。

 まして、雨が降っている訳でもない。

 

 すると「私も直ぐ近くよ」と言う。

 ああ、このままだと乗らざるを得なくなる気がする。

 そうなると、否応なくこれからの距離感が近くなってしまうし、それに、他の店員さんの目もあので、誤解されるもの困る。

 「こんな時くらい歩かないとね。日頃が運動不足だからね」。

 と、折角の好意をやんわりと断った。

 彼女の方も、それに話を併せて来てくれて、自然に話題が逸れてしまって乗らなくて済んだ。

 

 帰り道、あれは善意だったのだと、自分に言い聞かせながら歩いた。

 

 大岡越前がある老女に、ある問いかけをした。

「女人は何歳まで色気があるものなのか」。

 それを訊かれた老女は、恥ずかしそうに黙って火鉢の灰を混ぜた。

 灰になるまで……

 多分、この話は後世の人が作った話だろうと思う。

 何故なら、江戸時代は土葬が普通で、火葬はなかったからだ。

 それが、土にかえるまでと言うのなら解るのだが……。

 

 しかし、その例え話がなくても、年齢に関係なく恋愛感情はあると思う。

 まして、以前は年寄りのくせに恥ずかしい等と言われていたが、今では老人同士の恋愛は当然のようになっている。

 

 まあ、今回の事は自惚れだとは思うが、これまでの彼女の行動で……。

 

 映画「シャレード」です。