　「華麗なる休日？」今回は、塾ブログを休ませていただきます。（笑い）

　「よ～し・・・今日も一日終わったか」。と、私は教室の掃除を終え椅子に腰をかけた。その時だ。静かに教室のドアが開いてＮ氏が入ってきた。

　「おい、topzemi、今回のブログは俺に書かせろ」。「え～・・・！このブログは、かなり問題はあるけど、塾のことを綴った『教育ブログ』だぜ」。「こいつが目に入らないか！」とＮ氏は私のこめかみあたりに「銀色の玩具のピストル」を押し付け、引き金に指をかけた。「わ・・分かった。今回のブログは貴様に任せるぜ。それでいいんだろう」・・・という事で、今回の記事は、私ではなくＮ氏が書くことになりました。という事は、どんな事態が生じても責任の所在は、私ではなくＮ氏にあります。「そこんとこ、よろしく」（矢沢調に）

　Ｎ氏の憂鬱・・・。

　彼は、夜の8時ごろ、奈井江から札幌へと向かう電車に乗っていた。電車は心地よい律動を座席にいる彼の身体に一定間隔で送って来ていた。しかし、電車の窓ガラスに映る彼の顔は疲れ切り疲弊していた。そして眉間には深く刻まれた縦皺・・・。

　「なぜ今日は、上手く行かなかったのだろう？」彼は、低く呟くような声で独り言をいった。その声は、往年の映画『カサブランカ』に出てくるリック（ハンフリー・ボガード）の店で偶然に昔の恋人イルザ（イングリッド・バーグマン）と再会し、彼女が帰った後、「星の数ほどある店の中で、どうして俺の店に来たんだ！」とリックがハウスピアニストのサムに呟いた声のようだった。

　1週間ほど前、右の中指と薬指の爪にひびが入っているのを見つけ、彼は、近くのネールサロンに行った。そして、渋い声で眉間にしわを寄せ「あの～・・・（とほほ・涙）」と若いネイリストに声を掛けた。彼女は、慣れた口調で「どうしました？」・・・「あの～・・・爪が・・・」と、彼は周りを気にしながら爪を見せた。件（くだん）のネイリスト嬢は、彼氏のプロポーズを『作り笑顔でやんわりと断る女性』のように「そこにお掛けください」と席を示した。彼の横には、おばさんが二人・・・。私は、まるでアンデルセン童話のアヒルのヒナに交じった『みにくいアヒルの子』のように尻のあたりがムズムズした。「あのオジサンこんなところで爪を出してバカじゃないの…！」という声が聞こえてきた。

　「ああ、あの時から今日の失敗に繋がっているのか？・・・いや、違うぞ・・・朝から順を追って今日一日のことを考えて見るとするか」。

　「髪の収まりが少し悪いな・・・」。「何やってんのよ！電車に遅れるわよ（怒り」・・・。彼は、ブルーグレイのシャツの上に、15年前に購入した、AUSTIN REEDのシアサッカーのジャケットを身につけ、年代物のSalvatore Ferragamoの黒いユーチップで4穴のレースアップ靴を履いた。そして、GOLD PFEILのブリーフケースを肩にかけ、左手にギターケースを抱え颯爽と駅に向かった。当然、腕には父親の形見である1963年製のOMEGA Seamaster de villをはめていた。彼が勝負するときのスタイルである。

　「演奏の30分前ぐらいに、バナナを食べるとエネルギーが出るぞ」。・・・と先生が言っているのを思い出した。

　「いっけねっ・・・バナナ忘れた」（馬鹿か！）バナナを取りに戻ってから駅に向かって歩いていると、電車が駅に滑り込むのが見えた。「待ってくれ～え」彼は全速力で走った。ぜ～ぜ～ぜ～。「何とか間に合ったな」。彼は電車の席に腰かけ、あたりを見ると、若者が二人、視線をこちらに向け、にやにやしながらヒソヒソ話をしていた。

　むかついた彼は「おい若造、今の俺の走りは、ケンブリッジ飛鳥よりコンマ03秒ぐらい速いと思ったんだが、どうだい」・・・と心の中で、蛇に睨まれた蛙のように「しょぼん」と囁き、三角定規の角のように首を90度に曲げ下を向いた。走っている時、電柱に止まっている烏が「アホ～・アホ～」と鳴いているのを思い出した。「ケッ、どいつもこいつも」

　次の駅で、少女のように可憐なOさんがギターケースを抱えて乗車してきた。「50代にしてあの初々しさか、まるでローマの休日だぜ」などと彼は嘯いていると。な・な・何と、Oさんは、にっこりしながら彼の横の席に屈託なく座って『ヘップバーン』のように微笑み「お・は・よ・う」。彼は取って置きの笑顔とともに挨拶を返そうとしたが「お・・・・」。自分の意志に逆らって身体が反応しない。歌を忘れたカナリヤのように口をパクパク。（かっこわりい）

　結局、Oさんとはいっこうに話がはずまない。気まずい状況のままで、電車は目的地の奈井江に到着した。「クソッ、今日の俺は何をやってやがるんだ」。

　奈井江コンチェルトホールに入り、彼は、入り口に積んである『プログラム』を見た。「気に入らねえなあ～。なんで俺がトリではないんだ」と渋い顔をした。が。しかし「・・んま・・実力からしたらこんなものか」。・・・と軟弱にあっさり認めた。結局、彼は最後から3番目にギターを弾くことになった。

N氏が演奏した、奈井江コンチェルトホール

　プログラムは順調に進み、遂に彼の番がやってきた。「今日の演奏は、どうしても時空を超えて○○市に住む、イングリッド・バークマンのようにチャーミングな『blue嬢』に届けなくてはならない・・・という事はミス無しだぜ！」・・・と自らに気合いを入れた。そして、片手に愛器の「fado」を抱え、ステージへと向かった。ステージに上がった彼は、中央の椅子に腰かけ、入念に調弦を終え7ポジションに指をセットした。「今の俺は『明日に向かって撃て』の最後のシーンで拳銃をもって飛び出す、ポール・ニューマンかロバート・レッドフォードにでもなった気分だぜ」・・・と心で呟き、Ｅの和音のアルペジオからスタートさせた。

　名曲「グラナダ」である。「出だしはマズマズだな」・・・。前半のホ長調の40小節は、順調であった。次に同主調のホ短調に転調した時に問題は起こった。前日から、彼の頭の中には「blue嬢」にYou Tubeで示した、ジュリアン・ブリームの演奏があった。いつもは6弦を押さえているB音を、6弦のE音を残すため、無理して5弦のB音へと変えることだった。「よし、思い切って行ってやるぜ！」7小節目で人差し指に力を入れて「えいっ」と伸ばした。「よし上手く行った」・・・。「あとは15小節目のホ長調に転調した箇所だな」この箇所はさらに難しく、E♯を4弦の3指を押さえつつ、人差し指をB音5弦まで伸ばさなければいけないのだ。「しまった！！！人差し指が届かない！『blue嬢』のために完璧でなくてはならなかったのに」。彼は悔いを残しながら「グラナダ」の演奏を終えた。次の曲「入り江のざわめき」は多少のほころびはあったが出来は悪くなかった。

　まばらな拍手、彼は逃げるように控室に戻った。（スゴスゴ）

　ショックだった。「あんなに練習したのに。一瞬のチャレンジが・・・」彼は自己嫌悪にどっぷりとつかり「打ち上げ」に出ていた。むろん眉間には皺をよせ、「サッポロビール、クラシック、北海道限定『夏の爽快』を紙コップに注ぎ、飲み干した」。「今日のビールはやけに苦いぜ・・・」そして、誰が話しかけても、石狩湾の砂底に眠る「北寄貝」のように、一言も口を開かなかった。

　暗い電車の窓ガラスには、Ｎ氏の憂鬱な顔が映っていた。しかし、窓から遠くに「街の灯り」が見えた時、Ｎ氏は、きっとblue嬢なら『素敵な演奏でした』と言ってくれるように思った。そして、憂鬱な気分が少しずつ和らいでいくのを感じた・・・。

　The end・・・・・・。主演：Ｎ氏　友情出演：ヘップバーンのように素敵なＯさん

　Blueさんのために『生活の柄（せいかつのがら）』山之口獏／作詞　高田渡／作曲

　You tube　https://www.youtube.com/watch?v=fZmJPo1eTv4

　歩き疲れては　夜空と陸との

　隙間にもぐり込んで

　草に埋もれては寝たのです

　所かまわず寝たのです

　歩き　疲れては

　草に埋もれて寝たのです

　歩き疲れ　寝たのですが

　眠れないのです

　近ごろは眠れない

　陸（おか）をひいては眠れない

　夜空の下では眠れない

　ゆり起こされては眠れない

　歩き　疲れては

　草に埋もれて　寝たのです

　歩き疲れ　寝たのですが

　眠れないのです

　そんな僕の生活の柄が

　夏向きなのでしょうか

　寝たかと思うと寝たかと思うと

　またも冷気にからかわれて

　秋は　秋は

　浮浪者のままでは眠れない

　秋は　秋からは

　浮浪者のままでは眠れない

　歩き疲れては　夜空と陸との

　隙間にもぐり込んで

　草に埋もれては寝たのです

　所かまわず寝たのです

トップゼミナールのホームページはこちらから　http://www.topzemi.co.jp/　

『我が親愛なる「blue嬢」に捧ぐ』愛と涙のハードボイルド巨編・・・。