fadoおじさんのblog~明日の君に~

fadoおじさんのblog~明日の君に~

子ども達の未来を共に考える、小さな個別指導の学習塾の先生fadoおじさんのblogです。

 私が山下和仁さんの訃報を知ったのは、1月24日の夜のことであった。福田進一氏の投稿だった。享年64歳。病気でなくなられたとのことである。その早すぎる死に言い知れぬ悲しみがこみあげてきた。

 私は山下さんの熱狂的なファンではなかったので、その後1週間、YouTubeにアップされている彼の「音源(映像)」を見た(聴いた)。その感想を私なりに記しておこうと思う。

 

 山下和仁さん・・・?という人のために簡単に経歴お書かせていただきます。

 山下さんは、パリ国際、ラミレス、アレッサンドリア国際と権威ある国際ギターコンクールでいずれも史上最年少(16歳)で優勝し、帰国後はマスコミの注目を集める。そして、その後、彼は人跡未踏(誰もが成し得なかった超絶技巧)の世界へと突き進む。まさに「世界にギターの山下あり」と絶賛されていた。

 

 私が初めて山下さんを知ったのは、黛敏郎さんの番組「題名のない音楽(この番組は今でもあるが形式も質も全く違っていた)」という番組に出演し、F・ソルの魔笛の主題による変奏曲を、今では巨匠と言われている、荘村清志さんと変奏の繰り返しを交互に弾くという演出であったように思う。その鮮やかな恐怖さえ感じる超絶技巧に度肝を抜かれた。

 その時、山下さんは司会の黛さんに、今、ムソルグスキーの「展覧会の絵」のギター独奏への編曲をしている」と話されていた。ご存知だとは思うが「展覧会の絵」はピアノやオーケストラで演奏される曲である。その曲をギターに編曲し、とてもとても一台のギターで演奏できる類いのものではない。全く信じられなかったというより、恐怖さえ感じたのである。

 それからしばらくして、それが現実になった。1981年にドイツで「展覧会の絵」のギター編曲版が録音され、レコードも発売され、この録音はドイツレコード賞を受賞したのだ。それは正に「ギターの演奏の極限」をあっさりと越えてしまう、凄まじさであった。

 私はその録音は聴いていないし、それ以来、山下和仁さんの演奏から遠ざかってしまった。だって、凄すぎるから。

 

 彼がなくなってからYouTubeにアップされた、山下さんの「展覧会の絵」も初めて聴いた。

 

『展覧会の絵』ムソルグスキー作曲 山下和仁編曲 演奏:山下和仁

 

 You tube 

 

 

 

 

 「凄い」を通り越して「恐ろしさ」さえ感じる・・。

 

 メディアやSNS上などで、「完璧」とか「天才」という言葉が踊っている。しかし、私は、「完璧」は、まだしも、「天才」などという表現は相応しいとは思っていない。大袈裟かもしれないが・・・。山下さんは、『音楽の神がギターという楽器のために、この世に送り込んできた音楽の鬼神』とでも呼びたい。歴史的な演奏家では、悪魔の魂を売ってそのテクニックを身につけたという神話のある、ヴァイオリンのパガニーニやピアノのリストに匹敵するのではないだろうか。・・・と、私は感じた。

 

 そんなこんなで・・・。YouTubeで山下さんの演奏を聴き続けているうちに、超絶技巧とは対極にある本当に彼の優しい一面に触れることができた。こういう山下さんを速く知っていたなら・・・。と思う。

 それは、ギターを始めて半年ほどの初心者が、必ずと言っていいほど演奏する、リンゼイの「雨だれ」という曲を彼が弾いているのである。

 この曲は、石原慎太郎さんの小説、「太陽の季節」を映画化した時に、挿入歌として使われている。最初は、「ポツン、ポツン」と小さな雨粒が空から雨が降ってきて、その雨が勢いを増し、またポツンポツンと小さくなる。という感じの美しい曲である。

 

 『雨だれ』作曲:G.C.リンゼイ(1855-1945) 演奏:山下和仁

 

 YouTube 

 

 

 

 創作・・・「山下和仁さんに捧げる」

 

 アメリカの南部を、一台の馬車がホロをかけて暢気に歩いていた。御者は、ホロの中の荷物をしきりに気にしていた。中には売り物らしいギターがいっぱい吊るされている。お洒落なチャコールグレイのスーツを着た御者は、ギターの行商である。

 「こう景気が悪いんじゃさっぱりギターは売れないよ」。などと独り言を言いながら・・・。

 馬車が草原にある大きな屋敷の傍を通りかかた時、空から雨がポツリポツリと降り始めた。「やれやれ、雨か。あの屋敷の庭にでも馬車を止めて雨宿りでもするか」。と、彼はその屋敷の庭に馬車を止めた。そして、ホロの中に入って「売り物のギター」をポロンポロンとやっているうちに雨もおさまって来た。

 「そろそろ出発しようか」。と、ホロから顔を出した時、その家の窓が開いた。中から可愛らしい女の子が顔を出した。

 「おじさん・・・ギター上手だね。名前は何て言うの?」

 「おじさんかい?リンゼイって言うんだよ。お嬢ちゃんは何て言う名前なの?」

 「私、オルコットって言うの・・・。おじさん私にギターを教えてくれない?」

 「いや、おじさんこのギターを売らなきゃならないんだよ。残念ながらお嬢ちゃんに

ギターは教えられないんだよ」

 「パパに聞いて来るからちょっと待っててね」と、オルコットちゃんは部屋の中に引っ込んだ・・・。

 

 暫くして、父親が現れ、こう言った・・・。

 

 「そのギター全部買わせてもらうから、この子にギターを教えてやってくれないかい?」

と・・・。話がつき、リンゼイさんは、オルコットちゃんにギターを教えることになった。

 それから二年間、オルコットちゃんにギターを教えた。しっかりと上達したころ、リンゼイさんは彼女の家を去ることになった。

 その時、「この曲、オルコットちゃんのためにおじさんが作曲したものだよ」。と言って「雨だれ」という曲の手書きの楽譜を手渡した。

 その後、オルコットちゃんは、ギターのために沢山の曲を書き、有益な教本も編んだ。そして、「グランドギターの女王」と言われた。

 オルコットちゃん(V.オルコット、ビックフォード)がギターを始めたのは、8歳の時、山下和仁さんがギターを弾き始めた年齢と同じになりますね。

 

 『山下和仁さん、天国で、あなたにギターの手ほどきをしたお父さん、セゴビア、イエペス、ブリーム、そして松田先生の巨匠たちとギターを語り合ってくださいね。「献杯・・・。」』