山手線(渋谷~池袋) am 0:05



閉まりかけのドアに飛び込み

運良く座れた端席で目を閉じると

右隣からかすれた声が聞こえてきた。



「私、男性と目が合うと必ず食事に誘われるの。」



50代半ばの女性。


濃すぎる化粧をより際立たせる真っ赤なリップ。

派手すぎる茶髪を念入りにカールさせた髪型は

テレビで見たバブルを感じさせる。



「そう。」



隣には同世代と思われる男性。


アルコールで赤くなった顔からは、

どことなくいやらしさを感じる。



「それで、誘ってくる男性はいつも、いいお店に連れていってくれるの。」


「そうなんだ。」



「でも結局みんなH目的。最後はいつもホテルに誘われるわ。」



男は微笑みながらうなずき、

女の腰にさりげなく手を回す。



「でね、そんなの繰り返しているうちに男の人の目を見るだけで

 その人がH目的かどうか分かっちゃうようになったわ。」


女は下品に笑い、

男は鼻を鳴らし笑う。



正面の窓には、女の肩に頭を預ける男の姿が映っていた。



「君は綺麗だからね」



車内には停車駅のアナウンスが流れる。



「どうする?新宿まで乗って行く?」


「いや、代々木で降りよう。駅からはタクシーで家まで送るよ。」



電車のスピードが徐々に落ち始めると二人は席を立った。



「あなたの目的はなんなの?」



女はドアに寄りかかり

年甲斐もない、生娘のような口調で尋ねる。



「何もないさ。さあ、家まで送るよ、行こう。」



ドアが開くと、男は女の手を引き、電車を降りた。



男の顔は、赤く脂ぎり、

この世のものとは思えないほど

厭らしさに満ちていた。




男女は

いくつになっても男女である。