以前「読みと切れ負け」で書いた話に関連します。
将棋大会で先手の時計が切れたけど後手の玉が詰んでいる (詰将棋状態になっている) 場合、あなたは先手と後手のどちらを勝ちとするのがよいと思いますか?
後手の勝ちとする主義を「時計優先主義」、先手の勝ちとする主義を「詰み優先主義」と呼ぶことにします。
私は「時計優先主義」です。
もしあなたが「詰み優先主義」でしたら、会場の残り時間に余裕がない将棋大会で、以下の局面 (☗4四角 と打った直後) で先手の時計が切れ、先手が審判としてのあなたを呼び出して「私 (先手) の勝ちのはず、後手は投了するしかない」と主張し、後手が「そんなことはない」と主張した状況を想定し、勝敗を確定させて下さい。(続きはかなり下方になります。)
tanuki- にかけると、この ☗4四角 の前の局面が (多くとも) 47手詰であることが示されました。
▲4四角打 △2三玉(33) ▲2五飛(29) △同 銀(34) ▲2四歩打 △1二玉(23) ▲2三金打 △同 金(32) ▲同 歩成(24) △同 玉(12) ▲2四歩打 △3四玉(23) ▲3五金打 △4三玉(34) ▲5三角成(62) △3二玉(43) ▲2三歩成(24) △同 玉(32) ▲2四金(35) △1二玉(23) ▲1一角成(44) △同 玉(12) ▲1三香打 △1二角打 ▲4四馬(53) △3三歩打 ▲同 馬(44) △2一玉(11) ▲1二香成(13) △3一玉(21) ▲4三桂打 △4一玉(31) ▲5一桂成(43) △同 飛(81) ▲3二角打 △5二玉(41) ▲4三角成(32) △6二玉(52) ▲5一馬(33) △7一玉(62) ▲6一馬(43) △8一玉(71) ▲7一飛打 △8二玉(81) ▲7三馬(51) △9二玉(82) ▲8四桂打
こちらの情報によれば、これは43手詰だそうです。棋譜詳細はこちらです (1998年王将戦)。
つまり、この局面は広義の「後手玉が詰んでいる状態」にあります。詰み優先主義の方なら先手の勝ちと判定すると思うのですが、そうすると後手は黙っていないと思われます。
恐らく「この局面が詰んでいることを証明しろ」と言い出すと思います。証明するためには全ての枝葉を説明しなければいけません。全ての枝葉を説明した後も、後手は「この43手詰を先手が間違わずに時間内に解くことができる、という保証なんて何もない」と言うでしょう。私は棋力が低いので推測することしかできませんが、手数から言って、藤井聡太八冠級の詰将棋能力がなければこの43手詰を短時間 (時計が許す時間) 内に解くことは難しいと思います。
そもそも、「詰み優先主義」の方々+は、この局面を一目見てすぐに (例えば5秒以内くらいに) 「これは43手詰です」と結論を出せますでしょうか。また、それだけの能力がないと将棋大会の審判を務めてはいけない (全ての将棋大会には藤井聡太八冠級の詰将棋能力を持つ審判を用意する必要がある) ことになるでしょうか。
もし「短手数の詰んでいる状態のみ認める」のだとしたら、その閾値は何手でしょうか。仮に「0手詰局面のみ詰み優先とする」というように閾値が決まっているとしたら、それは大会要項にしっかりと記載されていますでしょうか。
再度書きますが、私は「時計優先主義」です。対局者は「時計が切れて負けとなる可能性がある状態」と「時計が止まり時間切れ負けになる可能性がない状態」とを行き来します。自分の着手が確定した後、時計を押すことで前者の状態から後者の状態に移ることができます。つまり、局面がどうであろうと時計が切れたら負け、というのが私の主張です。