坂本冬美のCDジャケットの意味 by理RayLee怜



坂本冬美のCD"Love Songs"が音楽配信サイトMoraの邦楽で今日もNo.1だ。毎日Sonyが提供しているX-アプリを使うため、Moraが目に入ってくるが、長い間No.1かNo.2である。Moraのユーザーは若い層が多いはずで、演歌歌手がこんなに長くこの位置にいるのは異例のことだと思う。"Love Songs"のコンテンツは演歌ではない。以前流行った他のシンガーの曲を坂本冬美が歌っているのである。こうしたことは最近多いらしく、中森明菜も”歌姫・・・”で同じようにしてだいぶ稼いだように思う。元々歌唱力や雰囲気の才能に恵まれた歌手が既に人の記憶に残ったヒット曲を歌うのだから、当たる確率は高いのだろうが、それにしても坂本冬美の"Love Songs"のヒットは、かなりレアだと思う。

理RayLee怜も発売されてすぐこのCDを買ったが、その入り口、つまり、「どんなCDか知りたい」と思ったきっかりけは、CDのジャケットだった。理RayLee怜は、演歌にはあまり興味がなく、坂本冬美についても”夜桜お七”くらいしか知らない。CDを買うことも少なく、TSUTAYAの棚をあてにしていることが多い。それにも拘わらず買うことにしたのは、まず、CDジャケットに惹かれたからである。Moraでトップにランクされたのは後の話であり、自分の趣味以外は受け付けないから、トップにランクされたから買うというようなことはしない(これは小説も同じ)。

前置きが長くなった。何故、"Love Songs"のジャケットがそんなに気に入ったのかというと、それは、絵として構成が斬新だったからである。"Love Songs"のジャケットは、そんなに派手ではない。しかし、人の目を引く。それは、坂本冬美を四角いCDジャケットのフレームから右側にかなり大胆に外しているためだ。CDジャケットは、歌手を強く打ち出したいわけだから、普通はフレームの中央付近に歌手をもってくるのが普通の発想であり、実際もそうなっている。それが違うのである。坂本冬美自身にも演歌歌手のイメージはない。ブルージーンズとターコイズをダークにしたようなコートがバックのペールべージュの壁や木の地肌が出たベンチによく合っている。Love Songsの二重に浮いた文字の方を見る目線、ベンチの端に脚を組んで座った坂本冬美のフォルム、演歌歌手として結い上げていた髪をおろした斜め横のフォルムはそれ自体が絵になっている。つまり、このCDが演歌でないことを明確に語っている。

ビジュアルの持つ力はたいしたものである。感性に訴え、人の気持ちを次の行動に運んでいくのだから。もちろん、理RayLee怜はジャケットだけでCDを買ったわけではない。Amazonの視聴を聞いて気に入ったから買ったのである。もし、歌が気に入らなかったらその時点で終わりだったはずである。「また君に恋してる」、「あの日にかえりたい」、「シルエットロマンス」、「時の過ぎゆくままに」なんかが特に気に入った。過去の歌が、音楽の素人の理RayLee怜に心に、難なく入ってきたのである。



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「ビジュアルと言葉
-画像の成り立ちと文章表現-」理怜/Ray Lee
猫乃電子出版
ISBN 978-4-902463-82-8

【書籍の入手方法】インターネットで電子出版:「猫の本屋さん」、または、「理想書店」にアクセスしてください


《概要》
 本書は、写真や映画などのビジュアル表現が、実際の生活にどんな影響を与えるかを分かりやすく説明している。ビジュアルと並ぶ表現手段として言葉があるが、それぞれには、その方法でしか表現できないものがある。例えば、『「美人」をビジュアルで表現できるのか?』とか『見ることには、文章のような解釈が入らないのか?』という疑問に答を出している。こうした解説は、他書に類を見ない、この本の特徴である。

「テロ」・・・東京の地下鉄は大丈夫か?

(ブイツーソルーション/発行、星雲社/発売 ISBN 978-4-434-11057-3 C0093)
(書籍出版の他、電子出版:PC、携帯電話にも配信)
<あらすじ>
 フォトグラファー湊屋薫は東京の地下鉄で爆弾テロに遭った。数日後、湊屋は仕事で使ったホリゾント(スタジオ・ポートレート撮影用の背景)に奇妙な模様があることに気付く。そこには地下鉄爆破テロの実行を指示するメッセージが書き込まれていた。身に降りかかる災厄に翻弄されながらも湊屋薫は事件の深層に向かい、テロ首謀者がイスラム系過激派ではなかったことを知る。しかし、疑問は残った……いったい誰が、何のために?
<あとがき>
 「ウィンドウ・ドレッサー(window-dresser)」とは「事実を隠して取り繕う人、体よく隠してごまかすヤツ」といったような意味。ウィンドウ=ショーウィンドウで、ドレッサーは装飾する人(職人・デザイナー)のこと。ショーウィンドウのディスプレーは実際のものよりも良く見せるという意味あいから派生し、粉飾決算(window-dressing accounting)まで拡大して使われるようになった。本書では、この英単語に別の意味あいを持たせ、タイトルとして使った。
  話は、2001年アメリカで起きた9.11同時多発テロ、2005年イギリスで起きたロンドンの地下鉄爆破テロの延長線を想像させる。イスラム圏の視点から見れば、日本はアメリカやイギリスなどに与する国であり、イスラム系過激派から敵対視されているのは間違いない。いつテロが起きても不思議でない状況なのは周知の通り。しかし、実際にテロが起きるとしたら、どんな理由から起きるのか。テロの原因は単純ではない。イスラム原理主義の攻撃とは限らない――逆説的な理由もありえる。

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<抜粋>

 爆発音といっしょに塊がぶつかってきた。塊は乗客に当たりながら湊屋の前で止まった。まるでピンボールだ。自分も電車の握り棒に胸を打ちつけた。感覚が麻痺している。あるはずの痛みがない。携帯電話を開き、ディスプレーのバックライトで足元を照らすと、男がうずくまっていた。流れ出た血が鼻先を伝わり、床に垂れている。塊はこの男だったのだ。
「だいじょうぶですか」 
 馬鹿な質問だ。だいじょうぶな訳がないのに、そう訊いてしまう。
 五感を信じることができなくなった。手を叩き、音に集中した。耳鳴りがして、音が聞こえにくい。今度は目だ。右目と左目を交互に閉じ、非常灯を見た。暗がりの中にEXITの文字が滲んで見える。
 地下鉄の電車から出た乗客は、巣に通じる穴を塞がれた蟻のように、無意味な動きを繰り返していた。
 湊屋は男の片腕を上げ、その下に自分の頭をくぐらせた。
 懐中電灯の明かりが落ちつきなく揺れている。
 駅員が二人がかりで電車の扉を開いた。
「いったい何が起きたんですか」
「知りません。こっちが聞きたいですよ」
 苛立ちを抑えることができない。湊屋は、怒鳴るように言った。
「この人を病院に連れていってくれ。次は俺だ」
 駅員は、男の頭がぶつからないように気をつかいながら、ホームの脇まで運び、プラットホームの隅に横たえた。
 ダブルのスーツを着た男が、もたついた女二人をかき分けて出てきた。男は誰に言っているのか分からないが、当たり散らすように叫んだ。
「テロだ! ロンドンの次は東京だったんだ。テロ対策法を強化しろとあれほど言ったのに。だから、こんなことになるんだ」
 テロという単語が鋭く響いた。人身事故や車両故障ではない。電車が脱線するほどの大爆発が起きたのは間違いない。
「どうして。テロってさ、嘘でしょ」
 女が叫んだことは、たいていの者が思ったはずだ。北朝鮮がミサイルを発射しても、誰も自分に着弾するなどとは思いもしない。テロも同じだ。
「プラットホームに中近東から来たような外人が立っていたのを見たぞ。ボストンバッグを持ってこの電車に乗りこんできたんだ。労務者風の男で、落ち着きなく周囲を見回していた」
 根拠に乏しい話だが、湊屋にとっては説得力があった。十年前、湊屋がフォトグラファーとして独立し始めた時、<ハリウッド>も<さいとう・たかを>も作らなかった劇的な事件、同時多発テロ9・11が起きた。その時のシーンと轟音は記憶に焼き付いている。

 ――二○○一年九月十一日。ニューヨーク。事件直前まで、湊屋はワールド・トレード・センター・ビルの中にいた。あるオフィス用品メーカーの宣伝に使うイメージ撮影を終え、JFK空港に向かう途中だった。距離にして五百メートルほど離れた時、湊屋はレンズを忘れたのに気付いた――「忘れ物をしたんです。引き返してくれませんか」――タクシードライバーは無言のまま次の信号で曲がり、反対車線に入った。前の車が止まり、人々が騒然として空を見上げた。湊屋はタクシーから飛び降り、摩天楼の間から、さっきまでいた巨大ビルを見つめた。他のビルの倍もある双子のような巨大ビルに旅客機が突き刺さり、融け合うように崩れていく……。
 握手して別れたばかりの者たちは全員死んだ。撮影が十分でも遅れたら、自分も死んでいただろう――

 強いライトがあちこちを照らし、完全密閉型の防護服を着た救急隊員が階段を降りてきた。電車から脱出した乗客は、救急隊員の姿を見ると、彼らの入ってきた方に殺到した。
 湊屋は、救急隊員の腕をつかみ、自分にぶつかってきた男を運ぶよう頼んだ。
 我先に階段を駆け上がる乗客の群れが階段出口を塞ぎ、救急隊員は男を運び出せない。サラリーマン風の男が「どけ!」と言いながら殴りかかってきた。湊屋が身をかわすと、男の拳が壁にぶつかり、鈍い音がした。男は身を屈めながら後退し、続く者たちは勢いを緩めた。
 パトカーや救急車のサイレン。怒声から泣き声まで混じった無秩序。十台近くの救急車が赤いランプを回転させている。野次馬がキープアウトのテープをいっぱいに伸ばしながら群がり、地下鉄の入り口を見ようとしていた。
 学生風の男が、携帯電話のデジカメを怪我人の顔に向ける。
「ふざけんなよ」――湊屋は携帯電話を手で払い除けた。
「このヤロー」
「勝手に撮んなよ。こんな時に何考えてんだ、バカ。一刻も早く病院に行かなきゃならないんだぜ。邪魔だ、どけ!」
 周りにいた者が視線を向けたせいか、学生風の男はブツブツ言いながら携帯電話を閉じた。
 救急隊員に病院への搬送を尋ねようとした瞬間、三度目の爆発音が響いた。爆風が背中に当たり、湊屋の上体は前に屈曲した。
「危険です! 下がって、下がれ!」
 警官の甲高い声が響き、群衆が波のように引いていく。
 胸を道路に打ち付けたせいで息ができない。湊屋は俯せから仰向けに体を捻り、胸への負担を軽くした。
 空は青く、いつもと変わらない。超然として下界の災厄を睥睨している。
 渋滞で身動きがとれない車が、争うようにクラクションを鳴らし合い、不安と苛立ちを増長する。
 目の前に停車したパトカーの窓から、無線で話す警官の言葉が聞こえた。
「こっちも爆発が起きて、地下鉄構内に入れない状態です。永田町や霞ヶ関からも運び込まれているんですか……分かりました。指示があるまで、金乃比羅神社に被害者を待避させておきますから、できるだけ早く、収容できる病院を指示してください」
 永田町や霞ヶ関でも同じことが起きたとすれば、日本の中枢を通る地下鉄が同時にやられたことになる。

「クロマグロの絶滅危機打開策」by理怜


【小説の抜粋】 

 大西洋での黒マグロの漁獲量は二○○六年に三万二千トン。大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)に従えば、これを二〇一〇年には二万五千五百トンに抑えなければならない。南マグロ保存委員会では、黒マグロと並ぶ高級寿司ネタの南マグロの漁獲を二○○七年から向こう五年間半減させるよう日本に割り当てた。南マグロの規制が特に厳しいのは、このまま乱獲すれば、そう遠くない将来、絶滅すると予測されているからだ。
 開発途上国からアメリカまでマグロの消費量は増える一方だ。足りない分は作るしかない。
 興津水産資源研究所は、染色体操作を施した巨大マグロの完全養殖を研究テーマとして取り上げ、実用化を狙っていた。このテーマが当たれば大きい。傾いた興津水産資源研究所を一気に優良企業に押し上げることができる。魚臭い作業現場的なイメージがつきまとう海洋生命科学が、ステータスを上げるチャンスにもなるはずだ。
 八重樫修司はオフィスの椅子から立ち上がり、実験水槽に向かった。
 IDカードをかざし、八桁の暗証番号をインプットすると、ドアのロックが外れた。 マグロは、光に対して敏感に反応する。マグロを刺激しないため、外光は遮断。照明は最小限に抑えてある。
 駿河湾の海水を取り込んだ実験用室内水槽はプールと呼ばれるが、矩形ではなく、直径五十メートル、深さ三十メートルの円筒形だ。マグロはエラ蓋が発達していないから、泳ぎ続けて海水を口に流し込み、呼吸しなければ生きていけない。流れを横切って泳ぐことはめったにないから、円筒形のプール壁に沿った流れを作ってやれば壁面への衝突は避けられる。
 八重樫は足元を確かめながら腰を落とし、プールの中に手を入れた。指の間を流れる水の感触はいつもの通りだ。
 黒マグロの背が指に当たった。怯えやすいマグロを刺激するのは禁止的だが、自分が作った完全養殖マグロは、俺の手に驚いたりはしない。
「マグロッチは、順調に成長してるな。独身の俺に子供がいるようなもんだ。生活費も学費もかからない我が子は、俺の体重も身長も軽く超えていく」
 薄暗いプールに慣れた八重樫の目には、黒マグロがそれぞれの個性を持って映る。二十三匹いるマグロ全てを見分けることができる。
 一メートルの黒マグロを両手ですくい上げ、頬ずりした。普通なら全身を振って、人の手から逃げようとするのだが、恵子は逃れようとする気がないように八重樫の腕の中に収まっている。
 恵子は、染色体三媒体化処理によって生まれてきた。人間と同じようにマグロも染色体が二セットある二倍体が普通なのだが、受精卵を操作すれば染色体を三セットもつ三倍体を作ることができる。三倍体の雄は成熟するが、雌は成熟しない。雌は、初潮を迎えない少女のように初々しい肉体を維持したまま成長し続けることになる。このまま順調に発育すれば、体長は四・五メートル、体重は一トンを超えるだろう。そんなものは、誰も見たことがないはずだ。黒マグロは本マグロとも呼ばれ、マグロの中で一番大きい。それでも天然や畜養で成長するサイズは、最大でも体長三メートル体重五百キログラムくらいだ。
 プール脇に併設した八重樫の実験室からは、プール全体が見渡せるようになっている。八重樫は、恵子の妹になるはずの黒マグロの受精卵をインキュベーターの中に入れ、スイッチを押した。
 八重樫はシャーレをライトテーブルの上にかざして黒マグロの稚魚の姿を見つめた。稚魚の生存率は数十分の一にも満たない。いかにして生きながらえさせ、生簀にもっていけるかが課題だ。
「受精卵を高温高圧にさらす従来法では、たいした進歩はない。歩留まりの悪い生育条件を改良するには、倍数体の誘起だけでは限界がある。遺伝子操作に入りこまなければブレークスルーはできない……」
 染色体の変性は意図的にやれるものではない。偶発的に突然変異種が生まれ、その中で環境に適したものが生き残り、そうでないものは死んでいく。その繰り返しが進化だった。今でも事情は変わらない。種のバリエーションを人為的に作って、自然界を統べる女神の前に差し出し、淘汰してもらうしかないのだ。
 パソコンで実験ファイルを開いてデータを入れようとした時、部屋の外で悲鳴に似た甲高い女の声がした。どなるような男の声も混じっているが、何を言っているのか、聞き取ることができない。
 八重樫はブラインドを手で押し下げ、外を見た。
 所員が何かの周りを取り囲んでいる。
 白衣の裾が強い海風を受け、音を立てながらはためいた。その隙間から人の足が見えた。
 外に出てみると、男が血にまみれてうつ伏せに横たわっていた。真っ逆さまに落ちてコンクリートに叩きつけられたらしい。赤黒い血が頭から流れている。
 事務の女の子が携帯電話に向かって叫んだ――「興津水産資源研究所です。た、高い所から人が落下しました。救急車をお願いします」
「いったい、どうしたんですか」
「見れば分かるだろう。言いたくないことを言わせるなよ」
 白髪が鬢にだけ残った禿頭の総務課長は、渋面を作って言った。この後にやらなければならない後始末で、週末がなくなることを恐れているに違いない……。
「自殺したんじゃないでしょうね」
 八重樫は恐る恐る言ってみたが、誰も答えない。もしかしたら、誰かに突き落とされたのではないかと疑ったが、声に出して言いはしなかった。
 外付け階段を女が降りてきた。白衣の胸ポケットに留めたIDが、盛り上がった胸の上で激しく揺れている――坂下享子――八重樫が数年前までいっしょに仕事をしていた実験助手で、陰でお局と言われる古参だ。
「三条さんは、突然廊下に飛び出して、走っていったんです。その後、外にある非常階段の踊場から飛び降りたんだと思います……見たわけではありませんけど」
 息を切らせながら享子は説明した。顔面蒼白で、顎が震え、唇が合わさらない。
 三条というのは昨年入社した若い研究員だった。大学を出たばかりの三条が春の陽光を浴びながら挨拶しにきたのを八重樫は覚えている。その男が顔を横に向け、コンクリートの上で口と目を開けたまま動かないでいる。坂下享子がしゃがみ込み、三条の体に触れた時、口から血が流れ出た。
 総務課長が享子の肩をつかんで注意した。
「やめなさい。こういう時は、動かしちゃいけないんだ……」
 十分くらいして救急車が着た。
 救急救命士が三条の瞼を指で開け、懐中電灯で照らしたが、三条の顔には何の反応も表れなかった。

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「ジプシー・クイーンズ」理怜/Ray Lee

猫乃電子出版
 インターネットで電子出版:「猫の本屋さん」、または、「理想書店」にアクセスしてください
ISBN 978-4-902463-78-1



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