男という種族は、大人になっても子供の時の心を大事に抱えているケースが少なくないようだ。自分も含めてである。模型作りから色々な物の収集まで、趣味の世界を超えた強いこだわりや自己主張が感じられるのである。当然、対象への熱狂ぶりは部外者の理解を受け入れることを拒否する程である。

 私は、植物を育てるのが好きである。それも、変わった植物がである。サキュレントと呼ばれる多肉植物の中の異形の一群。今では、さほど珍しくはないエアプラントと称するチランジアの仲間も、世の中に普及する前は、サキュレントの愛好家が、個人輸入してまで育成に苦労していた時代があった。

 食虫植物のグループも、私の関心を引く一群であった。扱う種は多様で、モウセンゴケの仲間から、つぼ型のウツボカズラやサラセニアなど栽培法も違った植物の集まりである。ウツボカズラなどは、冬越しには音質等の設備を必要とするし、低温に強いものもそれぞれの湿度とか、日当たりとかの環境面の整備が必要で、長く育てるのは、思った以上に困難である。

 食虫といっても、B級の特撮映画やSFのように、動物のように動き、強烈な消火液を吹き掛ける訳でもない。トリフィドなどのイメージはフィクションだけの話で、捕虫の仕組みはいたって悠長で偶然性にも強く支配されるものである。葉緑素を持っていて光合成をする種類などは、捕虫せずとも生きていけるだろうに、進化の上での能力の獲得は理由が良く分からない。

 値段的にも、花屋でも手に入れやすいのが「ハエトリソウ」である。北米原産ということだが、現地ではどう生えているのか興味深いが、本日はハエトリソウをめぐる記憶の断片である。
 二枚貝が口を閉じるように、ハエトリソウは虫を2枚の葉が閉じることで捕虫する。葉の外側にはギザギザが付いているので、閉じたときに牢獄の鉄格子を形成する。この2枚葉は、良く見ると表面に突起物が見える。陽は、虫がこの開かれた状態の葉の上で移動するときに、センサーに触れると葉が閉じる仕組みなのだ。この突起物をピンセット等で刺激すると、虫がいなくても葉を閉じる。この動きは、食虫植物の中では、早いものと言ってもい。しかし、無駄にセンサーを刺激するいたずらは、植物体の生育には良くないことなので、やらない方が良いとの指摘をどこかで聞いたことがある。

 ハエは愛されることのない虫である。ある時、生きているハエを捕まえてきて、ピンセットでつまみながら、ハエトリソウの上に押し付け、牢獄に閉じ込めた。実験のつもりの行為であった。ハエトリソウは、虫を牢獄に閉じ込めても、虫が腐敗分解するまでは、自らの栄養源とはできないようだ。この辺が、食虫植物の現実的な悠長な姿といっていい。

 さて、件のハエトリソウ、何日か経ってからとんでもないことになっていた。罠に閉じ込めたハエは卵を持ったメスであったので、その死骸からウジが湧いていたのである。かくて、そのハエトリソウは捨てられる羽目となったのである。ハエに復讐されたのである。私の記憶の中の一片でした。お粗末さま。