#50「これは品のいい映画だね」 | 認知症老人の詩 ~消えかかる記憶を辿って~

認知症老人の詩 ~消えかかる記憶を辿って~

認知症で要介護5の母が2022年6月に永眠しました。享年94歳。これは、おぼろげな呟きに込められた思い出の場面を辿った介護日記です。

この写真の女性、誰だかわかりますか?




すぐに分かったヒトは、
かなりの映画マニアでしょう。

先日、この女性が、
かつて主演した映画の
公開50周年イベントのために
来日したと知って、びっくりしたのですが、
ここ数日の間、
いくつかの記事がネットで広まっていたので、
ご存知の方もおられると思います。

彼女は、
私(1960年生まれ)のような世代の
映画ファンにとっては、
忘れがたい作品の主演女優です。

 


私がこの映画に出逢ったのは中学生の頃。
テレビ放送やビデオなどで、
どれだけ繰り返し観たか数えきれませんが、
そんな私の横で、

「これは品のいい映画だね」

…と、映画好きの母が
感心したように言ったのを思い出し、
久しぶりに、この映画を観なおしました。

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12歳ぐらいの少年少女が恋をして
「結婚したい!」と大人たちに訴える
…という物語なんて、
陳腐で幼稚になりそうなものですが、
この映画は、
制作から50年を経た今の時点で観ても、
少しも陳腐ではないし、
幼稚どころか、とても冷静な眼差しで
子供と大人を見つめていた映画だと思えます。



公開当時、
制作スタッフがほとんど20代ということが
話題になったのですが、
脚本を書いたのはアラン・パーカー。
プロデュースはデヴィッド・パットナム。

映画好きの方なら説明は必要ないでしょうが、
後にハリウッドでヒットメーカーとなり、
大出世した二人です。

反骨精神あふれる作品を
数多く世に送り出した彼らの原点が
この作品にはあると思います。

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ここで描かれる子供たちって、
全然優等生じゃないんですよね。

昭和時代の
「文部省特選」作品に出てくるような
いかにも純真な子供なんかじゃなくて、
親の読んでる新聞に火をつけて喜んでたり、
授業中にエロ本読んでたり、
校庭の隅で堂々と煙草吸ってたり、
挙句の果てには、
爆弾で親の車を吹っ飛ばしたり、
ろくなことやってない。

でも、大人たちも、
それほど立派なわけではなくて…

「好きな者同士が結婚して何が悪いんですか!」と
幼いながらも懸命に正論を訴えるダニーに対して、
毅然として答を言える大人は一人もおらず、
皆、オロオロするばかり。

どっちもどっちだよな…と、
つい笑ってしまったり、
家で泣きながら訴えるメロディの健気さに
何も言えずに、
涙ぐんでしまう両親たちの姿を見て
もらい泣きしてしまったり…。

決して、
大人と子供の対立というような
殺伐な構図ではなく、
辛辣さとユーモアが微妙に混ざり合った
物語だからこそ、観た後味が良く、
長い年月を経ても
多くの人に愛されているのでしょう。

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この映画の音楽と言えば、
おそらく誰もが「ビージーズ」を
思い浮かべるでしょうけれど、
ラストにかかる一曲だけ、
彼らの曲ではないことをご記憶の方も多いはず。



歌っているのは、
アメリカのロック史上に残る大御所バンド「CSN&Y」。

ダニーとメロディがトロッコに乗って走り去る
有名なラストシーンにかかる彼らの歌は、
やがては大人になっていく
彼らへ贈る言葉になっていて、
今の年齢になって聴き直すと、
歌詞の温かさが胸の奥まで沁み込んできます。

 


  君たちの夢を親に語るがいい
  受け入れられないかも知れないが
  何故と訊いても無駄だ
  ただ、彼らの顔を見れば
  君たちを愛してるってことがわかるはず

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「これは品のいい映画だね」

子供の残酷さや幼稚さも、
大人の不甲斐なさもフェアに描きつつ、
どちらも責めたりせず
あくまでも温かな視線で描かれている点を、
母は“品がいい”と言ったのかな。

今となっては、
その真意を訊くことはできませんが、
できれば、もう一度、この映画を、
今の年齢で母と観てみたかった…
そんなことを思いながら、
トロッコで未来に向かっていく二人を
俯瞰で捉えたラストシーンに
しみじみと見入ってしまったのでした。