今年6月にベトナムの首都ハノイにある送出機関N社を訪問しました。業務上のパートナーシップ契約の締結が目的です。

私は送出機関との契約の際には、経営責任者と面会するだけではなく、そこで学ぶ訓練生と触れ合う時間、会話の時間が持てるよう、事前に手配をお願いすることにしています。彼らとコミュニケーションをとることで、職業訓練の質や日本語指導の水準維持が、満足いくレベルで為されているか確かめることができると思うからです。

N社では、職種別、日本語学習進度別に教室を分けており、平日(月~金)の朝から夕方まで実践的なカリキュラムがタイトに組まれています。その貴重な時間割の中、今回も私の意向が叶い、いくつかの日本語指導の教室に招いていただきました。

入室したらまず教壇に立ち、全員と挨拶を交わします。次に自己紹介と自身の仕事(ベトナム人財の就労や生活の支援)の説明、日本地図を使って愛知県の説明(位置、文化風土、産業)と続き、最後は訓練生から私への質疑応答という順で進行します。訓練が始まって日の浅い訓練生もいれば、既に日本での就労先が全員確定している教室もあり、質疑の内容も実に様々でした。

しかし、N社のどの教室にも共通することは、皆が礼儀正しく、希望に満ちた表情や態度を示し、最初から最後まで、明るく笑顔で私を受入れてくれていたことです。

「福は徼(もと)むべからず。喜神を養いて、以て福を招くの本と為さんのみ。」

【解釈】幸福は求めようとして、得られるものではない。喜びの神(心)を養うことで、幸福を招き寄せる方法を基本とする以外にない。

 

 これは『菜根譚』の前集71項からの出典です。N社の教室ではまさに「喜神」が養われていることを強く感じました。彼らのエネルギーは、自らに幸福をもたらすことはもちろんのこと、日本にも明るい未来を届けてくれそうに思えます。

私の仕事は、彼らのような将来性のある若者を日本に招聘し、日本側の人事の課題を解決すること、そして同時に彼らの成長を支え、人生に寄り添うことです。

今回、N社の訓練生と時間を共有することができたおかげで、私自身も幸せな気持ちになれましたし、これからの仕事に対し一層情熱や意欲が高まりました。

これからも「喜神」を養うことを大切にして日常を過ごしていきたいと思います。

 

※菜根譚(さいこんたん)

400年前の中国「明」の時代末期の随筆集。著者は洪自誠(こうじせい)。

前集225項、後集135項が、それぞれ短い文章で書かれており、儒教をベースに道教と仏教の3つの教えが融合され人生を成功に導く極意として説かれている。