暇な時間帯にKさんが私の持ち場にやってきた
「秋山さん、映画、好き?」
「俺、古い洋画は結構詳しいですよ」
「こう見えても、俺も詳しいよ」
Kさん58歳、私は56歳
ほぼ同世代と言っていい
お手並み拝見としようじゃないか
「秋山さん、好きな女優は?」
「ヘプバーンですかね」
「俺も
‘ローマの休日’よりも‘ティファニーで朝食を’
のヘップバーンのほうが可愛いよね」
うむ、なかなかいい線である
しかし、‘昼下がりの情事’のほうが可愛い
「あと俺、トレイシー・ローズも好きだったんだよね
知ってる?」
う~む、誰だろう?…
しばし記憶を辿って繋がった
「アメリカのポルノ女優ですよね
見た事ないけど、名前だけは聞き覚えありますよ
Kさんらしいじゃないですか」
「違うよ、映画名はわすれたけど
中学生がさ、最後にトロッコで逃げる映画があったじゃない」
「ああ、‘小さな恋のメロディ’ですね」
「そうそう、それ。それに出ていた女の子」
「その女の子、トレイシー・ハイドっていうんですよ」
「そうだったけ?」
「(キッパリ!)そうです
相手の男の子の名前、覚えてます?」
「知らない」
「マーク・レスターっていうんですよ
その友達の名前は○○で、脚本は……」
「もういい、もういい」
まだまだだな
「スピルバーグの‘激突!’って知ってる?」
と、違う映画に話を変える
「ええ、見ましたよ。おっかなかったですよね」
「初めての監督作品とは思えないよね」
「違いますよ
その前に‘刑事コロンボ’の‘構想の死角’
を撮っていたんですよ
ちなみに、劇場用映画で初めてメガホン取ったのは
その後に撮った‘続・激突!カージャック’なんすよ
内容は、‘激突!’とは全然違いますけどね」
「あっ、(荷物)エレベーターが降りて来たから行かないと…
悔しいからリベンジしに来るね」
「いつでもどうぞ」
映画には結構な金を使ったんだぜ
そう簡単にはリベンジできねぇよ
まぁ、全く威張れる事ではないが…