― ふたつの声、ひとつの真実 ―


冬の気配が街の輪郭をくっきりと縁取る夜。

空気は澄み、星たちは凍えるほど鋭く瞬いていた。

そして今夜、空の高みには 双子座の満月 が、まるで二枚の鏡のような光を放っている。


チャップは、窓辺のクッションに前足を揃え、

その“二重に揺れる月の光”を、じっと見つめていた。


双子座の満月は、

言葉・対話・情報・心の二面性を照らし出す月。


外の世界と内なる世界。

理性と感情。

語った言葉と、飲み込んだ本音。


そのすべてが、今夜は「対」になって浮かび上がってくる。


カフェ・ルミエールの奥の棚では、

乾いたミントとフェンネルが、かすかに音を立てた。

風が、まるで見えない会話を運んでくるかのようだ。


チャップの胸の奥でも、二つの声が静かに響きはじめる。


「進みたい」

「まだ、ためらっている」


「伝えたい」

「傷つけたくない」


その相反する思いが、今夜は逃げ場なく、真正面から向き合わされていた。


ふと、机の上に開いたままの古いノートに、月明かりが落ちる。

そこには、蠍座新月の夜に湖の精霊から授かった“最後の鍵”をめぐる、小さなメモが残されていた。


――真実は、ひとつではなく、重なり合って存在する。


双子座の満月は、その「重なり」を照らす。


チャップはそっとノートに鼻先を寄せ、かすかなインクの匂いを嗅いだ。

その瞬間、胸の奥で絡まっていた二つの想いが、ほどけるように一つの線に結ばれていく。


「両方、あっていいんだにゃ…」


迷いながら進むこと。

揺れながらも語ること。

それこそが、双子座の満月が教えてくれる“新しい強さ”だった。


外では、雲が流れ、満月が何度も姿を隠しては、また現れる。

まるで「見えなくなっても、対話は終わらない」と告げるかのように。


チャップは静かに目を閉じた。


今夜、彼はひとつの決意を胸に刻んだ。

これから先の旅で出会う人びとに、

ただ“沈黙”ではなく、言葉と想いを交わす存在であること。


双子座の満月は、

チャップの中に眠っていた「伝える力」に、やさしく火を灯したのだった。


月の光が、窓硝子に二重に映る。

その光はやがて一つに重なり、

静かに、次なる物語の扉を照らしはじめた。


風は、すでに次の月へ向かっている。