触れて、言葉はいらない -4ページ目

いつかのことⅡ-43

彼の話を聞いて
ただ、無性に悲しくなった

私は彼と荷造りすることも出来なければ
彼の帰りを待つことも
彼の身を心配することさえ出来なかった


事実が、悲しかった…


「もう道わかるからナビ終了!」

また別れがやってくる

「な、澪。」
「ん?」
「夜のみなとみらい回ってこうか!」
「うん」
「夜景綺麗かもよ」

彼がハンドルを切った

いつかのことⅡ-42

「ごめんね…」
「え?」
「あの頃は若すぎて、斗亜にワガママ言ったり
迷惑かけちゃったね」
「そんなことないよ」
「ほんと、ごめん」


車は元来た道を走る
強い雨


「斗亜…手…」
「ん?」
「赤信号の時だけでいいから、手繋いでもいい?」
「夜の雨だと危ないから、止まった時だけね」
「うん」


信号で止まる度に手を繋ぐ
全部赤になればいい
そしたら、もう少し、もう少しだけ
一緒にいられるのに…


「俺この前までアメリカ行っててさー」
「ふぇ!?何で?」
「仕事」
「どれくらい?」
「2週間くらいかな」
「お土産は?」
「めっちゃ忙しくて、全然時間無かった」
「澪飛行機嫌い。怖いもん」
「俺まあまあ大丈夫かな」
「着陸がダメ。死ぬーってなる」
「結構揺れるしな」
「今思うとよくイギリスなんて行けたよ」
「今は乗れない?」
「あの時は勉強したい!って情熱だけで乗り切った(笑)」
「情熱、かぁ」
「ね、アメリカの話聞かせて」

いつかのことⅡ-41

「斗亜、メガネ変えたの?」
「これは休みの日用なんだ」

よくみると、深い赤のフレーム
彼の趣味じゃない色
JiNsのメガネ
奥さんの趣味だろうか

「ふぅん」


「澪、みなとみらい通って帰ろうか」
「うん!」

嫌い
帰り道

「斗亜が30歳かぁ…」
「なった時はショックだったよ」
「30歳には見えないよ」

運転する彼の頬に触れた

「よく取引先の人とかに、そんなにいってるの?って言われる(笑)」
「大丈夫。変わってないよ。やっぱりかっこいい」
「澪だけだよ。そんなこと言うの」
「5年前と変わらない。かっこいいままだよ」


「あの頃、若かったよな。お互いに」
「そうだね。出会った頃の斗亜の年齢なんて、とっくに追い越しちゃったし」
「俺も30になったし」
「澪ももう27だし」


もしも、今の年齢で彼と出会っていたら
今と同じ関係になっていただろうか

きっとなってないと思う
きっと…