本田宗一郎は後に父親の儀平さんの教えについて語った。
「人間には権利はあるけれど、遠慮するということがあるから、権利というものが高く評価されるんだよ。権利を高く評価するには、遠慮があるからですよ」
「百ある権利を百使うんじゃなくて、それをまあ、半分くらい使っていったほうがいいんですね」
「半分くらい使うからして、要するに五十%が信用とかいろいろなものになって、あの人はいいということの評価が出る訳でね」
「『てめえの権利をフルにやった日には、権利と権利がぶつかっちゃう』と、親父が言ったんですよ」
「今、話で思い出したがね。『宗一郎ね、お前はこの一尺の物差しでどこが真ん中だか判るか』と、いうからね。五寸だよって、言ったんですよ」
「そしたら『馬鹿っつら』って怒られちゃってね」
儀平さんの答えは、『一尺の物差しで五寸が真ん中じゃない。真ん中はこっちから四寸行って、向こうから四寸来て、二寸残ったとこが話し合いの場だから、これが真ん中だ』だった。
宗一郎はさらに儀平さんの話を続けた。
「『お前はそれを残さずにピンボケな答えをして、なにもかもやっつけ仕事だ』と、ひどく叱られたよ」
「真ん中というのは四寸四寸のとこなんだ。そこへちゃんと話し合いのできる人も立ってくれるし、話し合いの余地が残っているから、自分たちも工夫すりゃここで話ができるんだよ」
「『人がとにかく入ってくれる場を残せ』と、いうことだね」
「『戦争みたいに皆殺しみたいなことはやっちゃいかん。皆殺しやったら必ず恨みが来るぞ。必ず残せ。残せばこっちも楽だし、向こうの行動がよく判る。ぶつかったら向こうの行動は判らん』と、いうんですよ」
「『やっぱり真ん中は四寸四寸だ。お前はいつも本当に五寸まで行っちゃうからいかん。五寸どころか六寸も行っちゃうじゃねえか』って、さんざん怒られたよ」
たまにはクリックして↓ 順位UPに協力するじゃんね!