僕には、人生に多大な影響を与えてくれた「恩師」がいる。
以前勤めていた会社の社長で、御年77歳と、はるか年上の方で、今も圧倒的な存在感を醸し出しているのよ。
ただ、そんな恩師もリーダーゆえの気質なのか、自分の正しさを微塵も疑わないタイプであり、しかもその頑固さは、ここ一、二年でさらに顕著になってきた。
これは先月、韓国のビジネスパートナーであるSさんが来日した時のお話し。
恩師とも縁が深いことから、滞在中、一緒に会食することになり、「ならば俺が決める」と、恩師自ら店の手配をしてくれることになったのだが、そのことで僕の胸には一抹の不安がよぎった。
恩師がゲストを招く時は、かつて彼がオーナーを務めていた「イタリアン」がお決まりのパターン。
しかも、このイタリアンがまた曲者で、メインシェフがネパール人で、店の売りがネパールカレーという、「イタリアンはどこいった?」って感じの、カオスなお店。
つまり、日本人ならまだしも、外国人相手に、なぜにこの店を選ぶのか。
僕らが韓国を訪れる際、Sさんは必ず「何が食べたいですか?」と、こちらの意向を最優先して持てなしてくれる。
出張という限られた時間の中で、食事は唯一の楽しみであり、そう考えると、Sさんもきっと「本場の日本食」を心待ちにしていたはずなのよ。
そう思った僕は、意を決して恩師に「せっかくですから、今回は日本らしいものにしませんか」と提案。
恩師は「確かにそうだ」と、珍しく僕の意見を快諾してくれ、 見事に作戦は成功したはずだったのよ。
しかし当日、同行するスタッフからの連絡に絶句したね。
恩師は、その約束をすっかり忘れてしまったのか、あるいは無意識に「自分の城」へ足が向いてしまったのか、結局、指定されたのは、いつもの「イタリアン」だったのよ。
「イタリアン」なのに、テーブルに並ぶのはピザでもなければ、パスタでもない状況のなか、「ここのカレーは旨いんだぞ」と胸を張る恩師。
その横で、戸惑いながらナンを口にするSさんの姿に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった僕は、店を出て恩師をお見送りした後、Sさんを連れてラーメンに向かった。
実はSさん、味噌ラーメンが大好物なのよ。
湯気の向こうで、味噌ラーメンと餃子を頬張るSさんの嬉しそうな顔を見て、ようやく胸のつかえが取れた気がしたね。
帰国後、Sさんから「味噌ラーメンありがとう」というメッセージが届いた。
言葉には出さずとも、やはり「イタリアン」でのカレーには、満足していなかったのだろう。
そんな、味噌ラーメンを喜んだSさんの切実な思いを恩師に伝えたい。
でも、言えない…。
けど、また同じ機会が訪れたら、これだけは言おう。
「いつも甘えてばかりなので、次は僕に幹事をさせてください」と…。











































