日中の地下鉄。
揺れる車内で、僕の目の前に20代半ばだろうか、「小綺麗」な女性が立っていたのよ。
誤解を恐れず言えば、決して怪しい気持ちではない。
ただ、目の前で起きている『非日常』な光景に、どうしても視線を奪われてしまった。
なぜなら彼女は、左手でスマートにスマホを操りながら、右手で……あろうことか、フルスロットルで鼻をほじっていたのよ。
指の動きに迷いのない、周囲の視線を完全にシャットアウトしたその姿。
しばらくすると、彼女は親指と人差し指を合わせ、まるで素材の良さを引き出す職人の様な、手慣れた手つきでグリグリとやり始めた。
そして、その姿をチラ見しつつ、僕にひとつの疑問が生まれた。
「……それ、最終的にどうするんだろう?」
指先で完成を待つ「収穫物」を、そのまま、パクりといくのか?
ドアの隙間に、そっと供えるのか?
まさか、お守りとして持ち帰るのか?(そんな訳ない)
結末は、彼女が下車する直前に訪れた。
丹精込めて作り上げられた「至高の球体」を愛おしそうに見つめることもなく、彼女は指先をシュッと一閃。
芸術的なまでのポイ捨てを決めると、何食わぬ顔でホームへ消えていったのよ。
今の時代、電車内で車窓を眺める人なんて少数派(まして地下鉄だし)であり、誰もがスマホの画面という「自分の世界」に没頭している。
だからこそ、そこが公共の場であることを忘れ、「自分は誰からも見られていない」という錯覚に陥ってしまうんだよね。
スマホに夢中になるあまり、無意識のうちに自分を解放しすぎてしまう「現代の無防備」。
その女性の姿に、「人の振り見て我が振り直せ」じゃないけど、僕自身も気を付けようと思わされたよ。
まあ、僕のようなオッサンがそれをやれば『ただの不潔なオヤジ』で終わるんだろうけどね。
でも、彼女は止めた方がいいな。
間違いなく、驚かれるから…。

























