ある日、翔太は一冊の奇妙な本を見つけた。その表紙には「絶対死ぬ本」と書かれている。興味本位で開くと、中にはさまざまなシチュエーションが描かれていた。各ページには具体的な状況と、そこから生まれる危険が記されている。

 最初のページには「ある日のバス停」というタイトルがあった。内容はこうだ。雨が降る日、バスを待つあなたの目の前で突然、バスが故障し、制御を失って突っ込んでくる。翔太は思わずゾッとした。次に目を通したページには「崖から落ちる」という見出しがあり、そこでの選択肢が示されていた。無視することもできたが、翔太はその全てを読み進め、ページをめくる手が止まらなかった。

 各ページには、様々な生活の場面が挙げられていた。仕事中のオフィス、友人とのパーティー、海水浴。どれもが絶対に逃れられない運命を示唆している。読みながら、自分の周りにいる人々が次々と危険なシナリオに巻き込まれていくのを、翔太はイメージした。

 その夜、翔太は悪夢にうなされた。本の内容が頭から離れず、彼は心の中で「絶対に危険なシチュエーションを避けなければ」と強く思った。次の日、学校へ向かう途中、彼はいつも通りのバスを見送る。しかし、そのバスがいつもとは違うコースを取ると分かり、翔太は急いで別の道を選んだ。すると、目の前でバスはトンネルに入って行った。

 翔太は日常が変わったことに気づいた。小さな決断がすごい影響をもたらすことを知り、周囲の人々の行動も気になるようになった。しかし、本の中のような事故は起こらなかった。彼は周りの人々を守りたい一心で、自分の行動にも気を使い始めた。

 数日後、翔太は友人たちとの集まりに参加した。その場で、彼は「絶対死ぬ本」のことを話し始めた。みんなは興味を持ち、ページを読みあさった。しかし、彼の語りは次第に周りの空気を重くさせていく。笑顔が消え、緊張が広がった。次第に、場の雰囲気は奇妙なものに変わり、友達の一人が「翔太、もうその話はやめようよ」と言った時、翔太は気づいた。彼の中にあった恐れが、周囲の人を不安にさせていたのだ。

 それから、翔太は本を手放すことに決めた。彼はもう一度本を開き、ページをめくった。過去の情報をゼロに戻す、そう思いながら、彼は最後のページをめくった。「恐れを手放し、自分の運命を信じることが大切だ」と書かれていた。翔太は目を閉じ、心の中で「もう大丈夫だ」と繰り返した。

 本を捨てた後、彼は以前のように生活を送り始めた。日常には多くのリスクがあったが、それを恐れるのではなく、楽しむことができた。彼は去った本の教訓を思い出し、自分の運命を信じることで、人生をより豊かに彩ることができると確信したのだった。

 翌日、学校にゆくと、翔太に忠告していた友人の一人が、教室の中央で首吊り死体となってぶら下がっていたのだった。彼の机には、「みなさん、安心してください。みなさんが、来週の修学旅行のバスで死なないように、僕が生贄になっておきました。みんな、楽しい旅行ができて、よかったね!」と血文字で描かれていた。

「あいつ、なんていい奴だったんだ」

    翔太もクラスのみんなも先生も、この子の勇気と思いやりに感心した。そして、予定通り、修学旅行のバスに乗って、信州まで行ったのだった。しかし、その途中のトンネルで崩落事故が発生して、全員、絶え間なく落ちる砂礫や岩石の、生き埋めになり苦しみながら、死亡したのであった……。