ある小さな町に、「ネグソシスト」と呼ばれる男がいた。彼の名はアキラ。人々は彼を敬遠し、恐れ、話題にすることさえ避けた。しかし、アキラはただの奇人ではない。彼の不思議な力は、誰にも理解されることがなかった。
アキラは視線を合わせることができない者たちの心の中に潜む暗い影を感じ取ることができた。彼はその影を取り除くことで、人々を助けることに情熱を注いでいたのだ。しかし、彼の行動は町の人々に恐れられる原因となり、孤独な人生を送らざるを得なかった。
ある日、アキラは町で最も人気のあるカフェの前に座っていた。外の景色を眺めながら、彼は静かに自分の仕事を考えていた。この町には、どれだけ多くの人々が苦しんでいるのか。彼はそう思いながら、一杯のコーヒーをすすった。その時、女性の悲鳴が響いた。
「助けて!」彼女は青ざめた顔で、街路樹の下にうずくまっている男を指差した。アキラは心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。彼はすぐに駆け寄り、男のもとにたどり着く。男はアルコールの匂いを漂わせ、狂ったように自分の頭を撫で回していた。
「やめろ、お前には助けが必要だ」とアキラは静かに言った。
男は驚いたようにアキラを見上げた。アキラの目には、男の心の中の苦痛が見えた。その痛みは、彼が抱える過去から来ているものだった。アキラは男に手を差し出し、その手を取るように促した。男は呆然としていたが、やがて力強く手を握り返した。
「お前は、俺を救おうとしているのか?」男は涙を浮かべていた。
「そうだ。君の心の闇を取り除く手助けをする」とアキラは微笑んだ。
彼は男の心の中に入っていき、過去のトラウマと対峙した。それは彼が何度も経験した光景であり、男も同じように苦しんでいた。アキラはその闇を持ち帰り、取り除くための儀式を始めた。男の目からは涙が流れ、彼の心に溜まっていた苦しみが少しずつ解放されていく。
男は泣きながら、両手で顔を覆った。「ありがとう、ありがとう…」
その後、男は町の人々にアキラの名を語り、彼の力を知らしめた。町の人々は恐れから解放され、少しずつアキラを受け入れるようになった。ネグソシストの存在は、町の人々に希望を与え、彼は町のヒーローとなった。
しかし、アキラはその四方八方の街で人々の痛みを癒すことで自らの心の闇とも向き合わなければならなかった。彼の心の奥底には、自らの孤独が渦巻いていた。それは誰にも理解されない、彼だけの苦しみだった。
ある夜、アキラは町の広場で一人佇んでいた。ネグソシストと呼ばれた彼は、今や人々に喜ばれる存在となった。だが、彼には知ってもらえない「自分自身」が残っていた。その寂しさは、時折彼を深い孤独に包み込んだ。
そんな彼にとって、癒しの言葉を送る相手がいなかった。彼は最後に、自らの心の闇を受け入れることができるのだろうか。彼の運命は、まだ誰も知らない。
ネグソシストの物語は、単なる伝説ではなく、心の痛みを抱えるすべての人々への希望の光であり続けるのだろう。彼はこれからも、静かに彼の力を使い続けていく。人々の笑顔が彼にとっての救いであり、彼自身もまた、癒しを必要としていることを胸に秘めながら。
三日後、相談者の男は、自分の部屋のベッドの上で、大量のクソに塗れて死んでいたのだった。顔には浄福の笑みを浮かべて。町の人々は驚いたのであるが、アキラを逮捕しようにも、そこにはアキラの姿はなかった。ネグソシストという言葉の本当の恐ろしさを、人々はそこでようやく気付いたのだった……。
