山田詠美「つみびと」を読んだ! | とんとん・にっき

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来るもの拒まず去る者追わず、
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山田詠美の「つみびと」(中央公論新社:2019年5月25日初版発行)を読みました。「日本経済新聞」夕刊2018年3月26日から12月25日まで連載されたものです。
 
山田詠美の著作は、初期の「ベッドタイムアイズ」「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」など、ブッ飛んだ作品を読みました。また、「風味絶佳」「無銭優雅」などを読みました。その他、芥川賞の選評は必ず読んでいます。そのような作家が、まったく路線の異なるこのような小説を書くようになるとは、いやはや驚きました。
 
2010年夏、大阪のマンションに子ども二人を置き去りにして死なせたシングルマザーが逮捕された事件をベースにしています。事件については「ルポ 虐待 大阪二児置き去り事件」(杉山春:ちくま新書)に詳しい。
 
本のカバーには、以下のようにあります。
灼熱の夏、彼女はなぜ幼な子二人を置き去りにしたのか
追い詰められた母親。死に行く子供たち。痛ましい事件の深層に、何があったのか。
 
物語は、「母・琴音」の独白で始まります。
私の娘は、その頃、日本じゅうの人々から鬼と呼ばれていた。鬼母、と。この呼び名が、実際のところ、いつ頃から使われていたのかは不明だが、まさに娘のためにある言葉だと多くの人は怒りと共に深く頷いたことだろう。彼女は、幼い二人の子らを狭いマンションの一室に置き去りにして、自分は遊び呆けた。そして、真夏の灼熱地獄の中、小さき者たちは、飢えと渇きで死んで行った。この児童虐待死事件の被告となったのは、笹谷蓮音、当時23歳。私の娘。
 
物語は、「母・琴音」「娘・蓮音」「小さき者たち」(蓮音の子供・桃太)、それぞれが文体を替えて語る形式で進行します。時おり混じる栃木弁が、何とも痛々しい。
 
エピローグは、母・琴音の独白で終わります。
娘の蓮音の逮捕から8年の月日が流れた。その後、二度の公判を経て、最高裁は上告を退ける決定を下し、懲役30年の刑が確定している。児童虐待としては例を見ないほどの重さだが、情状はいっさい考慮されず、保護責任者遺棄致死罪の適用はなかった。殺意はあった、と見なされたのだ。
 
刑の確定から5年。蓮音は女子刑務所に収容されている。その間、琴音は信次郎に付き添われて何度も面会に訪れているのだが、いまだ娘に会えたことはない。拒否されているのだ。
 
そして、とうとう願い叶い、琴音の名は呼ばれたのだった。琴音の方も、口を開きかけるのだが、声にならない。蓮音は母の様子に気付いて振り返り、ゆっくりと口を動かした。何? と目で問いかけると初めて笑った。「幸せ」「え?」「口に出して言ってみて、ママ」だから、琴音は言った。幸せ。