島田雅彦の「深読み日本文学」(集英社インターナショナル:2017年12月12日第1刷発行)を読みました。
東京外国語大学在学中の1983年、「海燕」掲載の「優しいサヨクのための嬉遊曲」でデビュー、今から35年も前の作品です。デビュー作がいきなり芥川賞候補となるという見事な、素晴らしいデビューです。が、しかし、以来、芥川賞で最多となる6回の落選を経験し、芥川賞を受賞していない。芥川賞を受賞していない島田雅彦が、2010年下半期より芥川賞選考委員となります。(芥川賞未受賞の選考委員は現在、黒井千次さんと山田詠美さん(直木賞を受賞)がいる)。
僕が読んだ島田の作品は、「優しいサヨクのための嬉遊曲」ただ一作だけです。しかも、かなり遅くて、文庫本の奥付によると、2005年、平成17年の中頃ではないかと思います。それでも、もう13年も前のことになります。この作品、いわゆる「左翼運動」を「サヨク運動」と言い換えたところに、当時の新しさがあったのでしょう。そうなると彼らの活動は矮小化されて、大学のサークル運動から一歩も外へは出られません。
さて、先日、井上章一の「京都ぎらい官能篇」を書いたとき、実は島田雅彦の「深読み日本文学」から一部引用しました。それは、第1章「色好みの日本人」から、以下の箇所です。
天皇は領土を広げるために、朝廷軍を派遣して地方を征服、征服された地方の豪族は娘を「采女」として天皇に献上、采女とは天皇の近くで、主に食事の支度などの仕事に携わる女官の一つですが、容姿端麗な娘が選ばれ、後宮で奉仕させたと言われています。
「深読み日本文学」、集英社のインターナショナル新書に、以下のようにあります。
常識を揺るがす、日本文学の新しい読み方。
「色好みの伝統」「サブカルのルーツは江戸文化」「一葉の作品はフリーター小説」など、古典から漱石・一葉らの近代文学、太宰・安吾らの戦後作品、さらにAI小説までを、独自の切り口で分析。 創造的誤読、ユーモアの持つ効能、権威を疑う視線といった、作家ならではのオリジナリティあふれる解釈で、日本文学の深奥に誘う。
高橋源一郎氏(作家)推薦! 「待ってました! 『日本文学史』の最新・最強バージョン!」
島田雅彦のコメント:
この本では、夏目漱石、樋口一葉、谷崎潤一郎、大岡昇平といった文豪たちの作品を深く読み解きながら、文学の持つ意味を考察しました。バラ色の未来が期待できない今日、忘れられた文学をひもとき、その内奥に刻まれた文豪たちのメッセージを深読みすれば、おそらく怖いものなど何もなくなるはずです。どうぞご一読ください。
目次
序章 文学とはどのような営みなのか
第1章 色好みの日本人
第2章 ヘタレの愉楽―江戸文学再評価
第3章 恐るべき漱石
第4章 俗語革命―一葉と民主化
第5章 エロス全開―スケベの栄光
第6章 人類の麻疹―ナショナリズムいろいろ
第7章 ボロ負けのあとで
―戦中、戦後はどのように描かれたか
第8章 小説と場所―遊歩者たちの目
第9章 現代有文学の背景 ―世代、経済、階級
第10章 テクノロジーと文学
―人工知能に負けない小説
島田雅彦:
作家。1961年、東京都生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒業。在学中の1983年に、『優しいサヨクのための嬉遊曲』(新潮文庫)を発表し注目される。1984年『夢見王国のための音楽』(福武文庫)で野間文芸新人賞、1992年『彼岸先生』(新潮文庫)で泉鏡花文学賞、2008年『カオスの娘』(集英社文庫)で芸術選奨文部科学大臣賞、2016年『虚人の星』(講談社)で毎日出版文化賞などを受賞。その他、『彗星の住人』(新潮文庫)、『カタストロフ・マニア』(新潮社)など著書多数。
朝日新聞:2018年2月4日
「優しいサヨクのための嬉遊曲」
著者:島田雅彦
新潮文庫
平成13年8月1日発行
平成17年2月25日2刷
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