東京国立近代美術館で「日本の家 1945年以降の建築と暮らし」を観てきました。観に行ったのは、8月2日でした。
「1945年以降」とすると、戦後の住宅や建築、すべてが入ってしまいます。もうそろそろ「1945年以降」とか、「戦後」というくくりから脱皮しないといけません。こうした展覧会を観に行くたびに、池辺陽の「住宅No.3」や増沢洵の「最小限住居」、丹下さんの「自邸」から始まるのはいいかげん止めにしたらどうかと僕は思います。こうした展覧会が外国向けということで、日本の住宅や建築を紹介するという筋書きになっているのでやむを得ないとも思いますが。
そんなことで、金沢21世紀美術館の「ジャパン・アーキテクツ」や、パナソニック汐留の「日本、家の列島」と今回の「日本の家」は、主催者のそれぞれの主旨はあるものの、大筋では似たり寄ったりの作品選定でした。
金沢21世紀美術館で「ジャパン・アーキテクツ 1945-2010」を観た!
「日 本、家の列島 フランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザイン」プレス内覧会!
清家さんの「斎藤助教授の家」の実物模型、たしかに実物なのでインパクトはあるものの、やはり時代遅れの感は否めません。聞くところによると、当初は、石山修武の「開拓者の家」が実物模型になるということだったらしいのですが、それが実現していれば、もっとインパクトの強い、メッセージ性のある展覧会になっていたことでしょう。(その辺の事情はよくわかりませんが…)
そんなわけで、未だに強いメッセージ性のある、インパクトの強い作品が僕の目をひきました。それは篠原一男の作品と、石山修武の作品を下に載せておきます。たまたま「上原通りの家」にお住いの息子さんと、「開拓者の家」の未だに作り続けている正橋孝一さんのインタビューを会場でビデオで観たことにもよります。
「本展のポイント」は、以下の通りです。
…… テーマに分類して様々な視点から検証
日本の建築家56組による75件の日本の住宅建築を、400点を超す模型や手書きの図面、写真、映像などで紹介。時系列ではなく13のテーマに分類して展示することで、誰にとっても身近である家を時代性や社会性、立地環境や人と人とのつながりなど様々な視点から検証します。
…… 戦後に建築家が手がけた住宅に焦点
日本の住宅建築を成立させる条件が大きく変わった戦後に焦点をあて、建築家が手がけた住宅をこれまでにない規模で展示。現在に至るまでの、建築家による日本の家の数々をご覧いただけます。
…… 取り上げる主な建築家
青木淳、アトリエ・ワン、安藤忠雄、石山修武、伊東豊雄、乾久美子、菊竹清訓、隈研吾、坂本一成、篠原一男、白井晟一、清家清、妹島和世、丹下健三、西沢立衛、長谷川逸子、長谷川豪、藤井博巳、藤本壮介、藤森照信、山本理顕、吉阪隆正、吉村順三、アントニン・レーモンドなど、日本の建築史に名を刻む建築家たちの作品を一挙展示。
…… 展示室内には、中に入って体感できる実物大模型も
日本住宅建築の名作の一つで、ヴァルター・グロピウスに高く評価されたという逸話も残る《斎藤助教授の家》(清家清、1952 年、現存せず)の実物大の模型を、オリジナルの家具付きで制作します。
…… ローマとロンドンで大好評だった展覧会!
本展は、2016年にローマのMAXXI(マキシ)国立21世紀美術館で、2017年3月にロンドンのバービカン・センターで開催され好評を博しました。2017年は本展をはじめ、建築展が日本国内でも多数開催。建築への注目が高まる1年です。
「日本の家」会場風景
「斎藤助教授の家」(清家清、1952 年、現存せず)
「斎藤助教授の家」実物大の模型
「白の家」篠原一男、1966年
「谷川さんの住宅」篠原一男、1974年
「上原通りの住宅」篠原一男、1976年
「開拓者の家」石山修武、1986年
「世田谷村(自邸)」石山修武、1997~
ローマ、ロンドンを巡回した展覧会、ついに東京で開幕!
この展覧会は、日本の建築家が設計した1945年以降の戸建て住宅を紹介するものです。東京で企画が生まれ、ローマのMAXXI国立21世紀美術館とロンドンのバー美観・センターで開催された後、ここ東京国立近代美術館に巡回してきます。しかし、そもそもなぜ「日本の家」を紹介する展覧会がヨーロッパの主要美術館でも開かれたのでしょうか?
その答えは、次の5つにまとめることができます。①プリッカー受賞者を数多く輩出していることに象徴されるように、日本の建築は世界的に高い評価を得ている。②その日本では建築家が個人の家を設計するケースが相当数あるが、実はこの状況は珍しいと言える。諸外国では建築家は公共的な建築にできるだけ関わるべきだという認識が主流であるところが少なくない。③日本の建築家たちは、復興、高度経済成長、公害、バブル景気とその崩壊、震災といった環境の変化に対する回答を、むしろ家という小さな建築を通じて示してきた。④家の設計では、施主と建築家という極めて小さな範囲で物事が決定される。それゆえ変化に対する回答としての家は、必然的にラディカルになる。⑤日本では建て替えのサイクルが早いため、施主の世代交代が常に行われている。若い世代は建築家のこれまでの実践をよく知った上で依頼してくるため、新しく家が生まれる場合、それはさらにラディカルさを増す。
以上の答えは、「日本の家」の特色にほかなりません。そしてそうした特色をヨーロッパの観客に伝えるべく、50人(組)を超える建築家による75の住宅建築を、「大地のコンクリート」や「遊戯性」や「脱市場経済」など13のテーマに分けて紹介することにしたのでした。展示品は、模型、図面、写真、映像など、全部あわせて400点を超えます。
しかし、この規模で日本の家を取り上げた展覧会は、意外なことに、ここ日本国内でもこれまでなかったのです。その日本では今、少子高齢化や晩婚化・未婚化がしばしば話題になります。同性のパートナーシップが認められつつもあります。こうした事実が示すのは、家族像が大きく変化しつつあることです。またコンパクト・シティの推進をいくつもの自治体が検討しているように、都市での暮らし方も変化していくでしょう。つまり、今まさに、「日本の家」とは何かが問われているわけです。それが本展を日本での開催することになった大きな理由です。1945年以降今日までの「日本の家」を分析し紹介する本展が、未来の家を考える手掛かりになれば幸いです。
日本の家 1945年以降の建築と暮らし
発行日:2017年7月26日
監修:保坂健二朗(東京国立近代美術館主任研究員)
塚本由晴(アトリエ・ワン 東京工業大学大学院教授)
編集:株式会社新建築社
東京国立近代美術館
発行:株式会社新建築社
朝日新聞:2017年9月26日