お酒はぬるめの 燗がいい 肴はあぶった イカでいい
女は無口な ひとがいい 灯りはぼんやり 灯りゃいい
この歌が売れてきた頃、脚本家の倉本聡と会ったら、「要するにナイナイづくしのはんたいなんだよな。簡単なことなのに、それを思いつかないのが口惜しいね」と誉めているのか貶しているのか、わからないことを言われたが、気に入ってくれていたのだろう、彼の脚本による映画「」駅・STATION」では、高倉健と倍賞千恵子による名場面を作ってくれた。
北海道の港町の居酒屋で、元オリンピック射撃選手の警察官の高倉健と、人生に疲れた店の倍賞千恵子が、テレビの紅白歌合戦を「この歌好きなのよねえ」と言いながら見るシーンである。これは印象的だった。
しみじみ飲めば しみじみと 想い出だけが 行き過ぎる
この歌を歌う八代亜紀は絶品である。
(阿久悠:愛すべき名歌たち)
「駅・STATION」では紅白歌合戦をテレビで見るシーンで「舟歌」が流れていました。桐子は「この歌好きなのよねえ」と言います。僕は一度だけだとばかり思っていました。ところが3度も出てきました。考えてみると、大晦日のテレビ番組は「日本レコード大賞」があって、「紅白歌合戦」がありました。歌手はTBSからNHKへ大移動、というのが恒例でした。つまり、「舟歌」は大晦日に「レコード大賞」と「紅白歌合戦」で歌われたのでしょう。桐子は言います。「どんな遊び人も、どんなに心を許した男性も、正月には故郷や家庭に帰ってしまう、つらいのよ、そんなとき」。桐子の言葉に英次は激しく揺さぶられます。何はともあれ、桐子は二面性を持っています。桐子は拳銃を持っている凶悪犯を匿っています。英次はそれに気がつき、桐子の住まいを訪ね、一瞬早く彼を銃殺します。英次が警察官だったことが初めて桐子にはわかります。札幌へ帰る途中に、桐子の店に意を決して英次は寄ります。話もなく、いたたまれなくなって桐子はテレビをつけます。テレビには「舟歌」が流れ、桐子の目には涙が。
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