東京ステーションギャラリーで「鴨居玲展 踊り候え」を観た! | とんとん・にっき

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東京ステーションギャラリーで「鴨居玲展 踊り候え」を観てきました。観に行ったのは6月5日のこと、約1か月前のことです。


鴨居玲の作品を僕が始めて観たのは、東京国立近代美術館で観ていたかもしれませんが、たぶん2012年、笠間日動美術館だったように思います。過去のブログによると、宮本三郎の「画室の自画像」(1968年)と並んで、鴨居玲の「サイコロ」(1969年)がありました。今回の展覧会も、石川県立美術館と並んで、笠間日動美術館の作品が数多く出品されていました。


笠間日動美術館所蔵作品は14作品です。ちなみに石川県立美術館は、その数18作品でした。石川県金沢市は、鴨居が22歳まで生まれ育ったところであり、関係が深いのは当然のことです。宮本三郎は、鴨居が入学した金沢美術工芸専門学校の講師であり、鴨居は宮本から教えを受けています。宮本と鴨居、師弟関係にあったことは、今回初めて知りました。


鴨居は、金沢美術工芸専門学校を卒業し、上京します。「一所に留まらない性分から、南米・パリ・ローマ・スペインを渡り歩きました。各地で出会った社会の底辺に生きる人々をモティーフに作品を制作しますが、そのいずれもが自身を投影した自画像ともいわれます」。1969年、第12回安井賞受賞作、「静止した刻」(1968年)は、迷いと行き詰まりを抜け出すための南米旅行が契機となってできた作品と言われています。鴨居初期における一つの頂点と言える作品です。


1971年、鴨居はスペインに渡り、絶頂期を迎えます。それまで、南米、パリ、ローマを放浪しても、地元の人と打ち解けることのなかった鴨居ですが、スペインのラ・マンチャ地方に居を移し、「私の村」と呼んで、陽気な人々と気さくにふれあい、人生で最も幸福な日々を過ごします。「おっかさん」(1973年)は、いくつになっても子を思う年老いた母といい年をして叱られしょげ返る息子のユーモアたっぷりの様子には、母親と鴨居の姿が重なります。


スペイン時代にその骨格を作り、続くパリにおいてそれを補完し、確立された鴨居の作品世界は、1977年に帰国後、神戸で新たに始動します。しかしそれが画業に良い影響をもたらしたわけではなく、新たな課題も模索し、裸婦に取り組みますが、結局、裸婦は油彩のようにはいかず、習作にとどまります。鴨居は画業の集大成として「1982年 私」など、記念碑的な作品を描きますが、それは同時に、死による決着へとひた走る、ということになります。


鮮烈な赤が目を引く「出を待つ(道化師)」など、いくつもの自画像の傑作が生まれますが、それは自己を巡る旅の終点としての自画像でした。ウイスキーと睡眠薬の併用、度重なる自殺行為など、鴨居の心身は急速に蝕まれ、ついには1985年9月7日、鴨居は自らの命を絶ったのでした。


没後30年にあわせて開催された今回の展覧会、10代の自画像から遺作まで、57年の生涯で残された油彩の代表作をはじめ、素描、遺品など約100点が一堂に展示されています。会場で観る鴨居の作品は、画像などで観るものとは違って迫力があります。ぜひ会場で、鴨居の作品を観ることをお薦めします。


展覧会の構成は、以下の通りです。


Ⅰ 初期~安井賞受賞まで

Ⅱ スペイン・パリ時代

Ⅲ 神戸時代――一期の夢の終焉

Ⅳ デッサン



Ⅰ 初期~安井賞受賞まで



Ⅱ スペイン・パリ時代





Ⅲ 神戸時代――一期の夢の終焉




Ⅳ デッサン




東京ステーションギャラリー:階段室



「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」
人間の内面を見つめ、自らの心魂をキャンヴァスに描き出した鴨居玲。その東京では25年ぶりとなる回顧展を開催します。金沢で生まれた鴨居玲(1928-1985)は、新聞記者の父の転任に伴い、子どものころから転校を重ね、一所に留まらない性分から、南米・パリ・ローマ・スペインを渡り歩きました。各地で出会った社会の底辺に生きる人々をモティーフに作品を制作しますが、そのいずれもが自身を投影した自画像ともいわれます。ときに、ユーモアに溢れ、芝居っ気たっぷりに、人を煙に巻くかと思えば、絶望感にとらわれ、酒に溺れ、自殺未遂を繰り返す。繊細でひたむきな破滅型の人生が、そのまま暗く沈んだ重厚な画面に、劇的な姿となって表わされています。そして、人の心の奥底に潜む暗部を注視し、己れの内なる孤独と苦悩を吐露しながら、心身を削るように描かれた作品は、見る者の胸に迫り、強く訴えかけてきます。没後30年にあわせて開催する本展では、10代の自画像から遺作まで、57年の生涯で残された油彩の代表作をはじめ、素描、遺品など約100点を一堂に展示し、今もなお、多くの人を惹きつけてやまない鴨居玲の崇高な芸術世界をご紹介します。

「東京ステーションギャラリー」ホームページ


kam2 「没後30年 鴨居玲展 踊り候え」

図録
編集:

公益財団法人日動美術財団[冨士根智之]

東京ステーションギャラリー[清水広子]
北海道立函館美術館[久米淳之]

石川県立美術館[二木伸一郎、前多武志]

伊丹市立美術館[多忠秋]

制作:

日動出版

発行:
公益財団法人日動美術財団

東京ステーションギャラリー
北海道立函館美術館

石川県立美術館

伊丹市立美術館


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