中村文則著「教団X」を読んだ! | とんとん・にっき

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中村文則著「教団X」(集英社:2014年12月20日第1刷発行)を読みました。567ページもある分厚い本、発売と同時に購入し、第1部は今年の1月中には読み終わっていましたが、その後半年間、なかなか読む気にならず、やっと今頃読み終わったというわけです。


中村文則が第4回大江健三郎賞を受賞し、大江健三郎と受賞者・中村文則の「公開対談」を、講談社に聞きに行ったのが、2010年5月でした。「掏摸」で受賞しました。大江健三郎賞は賞金はなく、受賞者の特典は、英訳して海外で出版する、というもの。その英訳された「掏摸」が、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで2012年のベスト10小説に選出され、中村は一気に著名な小説家となった、というわけです。


大江健三郎賞を受賞したその5年前、2005年「土の中の子供」で芥川賞を受賞しました。また、思わせぶりな微妙なタイトルの「去年の冬、きみと別れ」がありました。これも中村の転機になった作品といえます。僕は、中村の作品をすべて読んでいるわけではないのですが、いくつか読んだ中村の作品は、どれもが話題作であり、問題作でもあります。大江健三郎賞を受賞したその5年後、とりわけ彼のキャリアの中で、もっとも長い小説「教団X」は、極めつきの問題作でもあります。


どうしてもこうした「カルト教団」をテーマにうした小説は、僕たちは「オウム真理教」という過去があり、そのイメージに引きずられてしまうことは避けられません。


第一部は、アマチュア思索家を名乗る松尾正太郎を軸に、緩やかに形成された集団と、松尾の死までが描かれています。第二部は、絶対者のごとく君臨する澤渡を軸にした、公安警察からは「教団X」と呼ばれているカルト教団の壊滅と、関係者のその後、松尾グループの再生を描き出します。松尾の思想は、世界を肯定します。澤渡の思想は、世界を否定します。元々二人は同じ師のもとにいました。


物語は、松尾の集団と、澤渡の集団「教団X」に関係する4人の男女の視点から、多面的に描かれています。突如を消した立花涼子、涼子を探す楢崎、アフリカ過激派武装集団にかかわる高原、高原を追って教団に来た立花涼子、高原を愛する峰野、そして松尾の妻芳子や、警察や公安の人々。謎が謎を呼び、仕掛けられ、ミステリーの様相を呈してきます。


一つは西洋の、「神の試練」という考え方。二つ目は東洋の、いわば「諸行無常」のような考え方。松尾正太郎は、次のように言います。「どちらが正しいということはありません。私は、真実はこの間にあると感じます。この両方にあると言ってもいい。時には挑み、時には全てもいつか消えるのだ、と考える。それでいいと思います。たとえそれが決められたものであっても、変えられるものであっても、私たちは主体性をもって目の前の現れる道を選択し続ける姿勢でいればいい。その姿勢がきっと必要なのです」と。


松尾の妻芳子は松尾の思想を受け継ぎ言う。「私達は世界を肯定しましょう。世界の全てでなくてもいい。世界の何かは肯定しましょう」。そして「皆さん、私達は人間です。不安定だけど、人間です。皆さん」。拍手が続く。歓声が起こる。「共に生きましょう!」、と芳子は呼びかけます。


「あとがき」には、以下のようにあります。

この小説は、僕の15冊目の本になる。・・・世界と人間を全体から捉えようとしながら、個々の人間の心理の奥の奥まで書こうとする小説。こういう小説を書くことが、ずっと目標の一つだった。これは現時点での、僕の全てです。

naka

内容紹介

絶対的な闇、圧倒的な光。
「運命」に翻弄される4人の男女、
物語は、いま極限まで加速する。
米紙WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)年間ベスト10小説、
アメリカ・デイヴィッド・グーディス賞を日本人で初受賞、
いま世界で注目を集める作家の、待望の最新作!

謎のカルト教団と革命の予感。
4人の男女の「運命」が重なり合い、この国を根底から揺さぶり始める。
神とは何か。運命とは何か。
著者最長にして圧倒的最高傑作。ついに刊行。


内容(「BOOK」データベースより)

謎のカルト教団と革命の予感。自分の元から去った女性は、公安から身を隠すオカルト教団の中へ消えた。絶対的な悪の教祖と4人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者最長にして圧倒的最高傑作。


中村文則:

1977年、愛知県生まれ。福島大学卒業。2002年「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年「遮光」で野間文芸新人賞、05年「土の中の子供」で芥川賞、10年「掏摸」で大江健三郎賞を受賞。他の著書に「悪意の手記」「最後の命」「何もかも憂鬱な夜に」「世界の果て」「悪と仮面のルール」「王国」「迷宮」「惑いの森~50ストーリーズ」「去年の冬、きみと別れ」「A」などがある。「掏摸」の英訳版が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで2012年のベスト10小説に、「悪と仮面のルール」の英訳版が同紙の2013年ベストミステリーの10作品に選出される。また2014年、ノワール小説の分野に貢献した作家に贈られるアメリカの文学賞「デイビッド・グーディス賞」を日本人として初めて受賞した。


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